最終更新日:2017/12/8
長期取得時効
ちょうきしゅとくじこう取得時効とは、所有の意思をもって物を一定期間占有したとき、その物の所有権を取得することができるという時効の制度である(民法第162条)。
占有を開始した時点において自己の物であると信じ、そう信じるにつき無過失(善意かつ無過失)であれば、10年間の時効期間の経過により所有権を取得することができる。これを短期取得時効という(民法第162条第2項)。
これに対して、占有を開始した時点において自己の物でないことを知り、または過失によって知らない場合(つまり悪意または有過失の場合)には、20年間の時効期間の経過により所有権を取得することができ、これを長期取得時効という(民法第162条第1項)。
長期取得時効の成立要件は、ほぼ短期取得時効の成立要件と共通であるが、次のとおりである。
(なお地上権・賃借権の取得時効については、所有権以外の財産権の取得時効へ)
1.物を占有すること
物とは原則的に「他人の物」であるが、「自分の物」であってもよい。時効はそもそも、継続した事実状態と法律関係を一致させようとする法制度であるので、自分の物を長期間占有したという継続した事実状態を主張することは当然に可能である(判例)。また物とは国の財産であってもよい(例えば使用が廃止された国有水路など)。
物とは不動産でも動産でもよいが、動産については即時取得の制度が適用されるので、通常は動産について取得時効が問題になることはあまり考えられない。
2.20年間の時効期間が経過すること
占有が20年継続する必要がある。占有者が占有を中止したり、他人によって占有を奪われた場合には、その時点で時効の進行は中断する(つまり振り出しに戻る)。
また時効期間の計算では、占有を実際に開始した時点から起算する必要があり、占有の途中から起算することは許されないとするのが判例である。
3.平穏かつ公然に占有すること
通常は、平穏かつ公然に占有しているものと推定されるのであまり問題とならない。真の所有権者であると主張する者が占有者に抗議したとしても「平穏な占有」である。また、占有者が自己の物でないと知っていても「平穏な占有」である。
4.所有の意思をもって占有すること
所有権者と同様に物を支配する意思をもって占有することが必要である。土地賃貸借契約によって占有する場合には、その占有はあくまで賃借人としての占有に過ぎないので、原則として「所有の意思」をもってする占有とはならない。
取得時効
取得時効が完成するのに要する期間には、善意かつ過失なしで占有した場合には10年(短期取得時効)、それ以外の場合には20年(長期取得時効)である。
占有
占有権の法的な効果は、占有の形態などによって若干異なるが、一定の要件のもとでは、取得時効(占有の継続によって所有権を得る)、即時取得(占有されている動産を取引行為によって取得できる、不動産についてはこのような効果がないことに注意)、占有責任(不法行為などについて責任を負う)などが認められ、あるいは負わされる。
所有権
近代市民社会の成立を支える経済的な基盤の一つは、「所有権の絶対性」であるといわれている。だが逆に、「所有権は義務を負う」とも考えられており、その絶対性は理念的なものに過ぎない。
土地所有権は、法令の制限内においてその上下に及ぶとされている。その一方で、隣接する土地との関係により権利が制限・拡張されることがあり、また、都市計画などの公共の必要による制限を受ける。さらには、私有財産は、正当な補償の下に公共のために用いることが認められており(土地収用はその例である)、これも所有権に対する制約の一つである。
短期取得時効
これに対して、占有を開始した時点において悪意または有過失であれば、20年間の時効期間の経過により所有権を取得することができ、これを長期取得時効という。
短期取得時効の成立要件は次のとおりである。
(地上権・賃借権の取得時効については、所有権以外の財産権の取得時効へ) 1.物を占有すること
物とは原則的に「他人の物」であるが、「自分の物」であってもよい。時効は、そもそも継続した事実状態と法律関係を一致させようとする法制度であるため、自分の物を長期間占有したという継続した事実状態を主張することは当然に可能である(判例)。また、物とは国の財産であってもよい(例えば使用が廃止された国有水路など)。
物とは不動産でも動産でもよいが、動産については即時取得の制度が適用されるので、通常は動産について取得時効が問題になることはあまり考えられない。
2.10年間の時効期間が経過すること
占有が10年継続する必要がある。占有者が占有を中止したり、他人によって占有を奪われた場合には、その時点で時効の進行は中断する(つまり振り出しに戻る)。
また時効期間の計算では、占有を実際に開始した時点から起算する必要があり、占有の途中から起算することは許されないとするのが判例である。
3.平穏かつ公然に占有すること
通常は平穏かつ公然に占有しているものと推定されるのであまり問題とならない。真の所有権者であると主張する者が占有者に抗議したとしても「平穏な占有」である。
4.所有の意思をもって占有すること
所有権者と同様に物を支配する意思をもって占有することが必要である。土地賃貸借契約によって占有する場合には、その占有はあくまで賃借人としての占有にすぎないので、原則として「所有の意思」をもってする占有とはならない。
5.占有の始めにおいて善意かつ無過失であること
実際に占有を開始した時点において自己の不動産であると信じ、そう信じるについて過失がないことが必要である。ただし、占有の途中で自己の不動産ではないと気付いたとしても問題にはならない(あくまで占有開始時点で善意・無過失であればよい)。
悪意
例えば、AがBに不動産を虚偽で売却したうえで登記をしたときにはAB間の取引は無効であるが、その登記済みの不動産をCが買収した場合に、CがそのAB間の取引が虚偽であることを知っていた(悪意である)ときには、ABはCに対して当該不動産の所有権移転が無効であると主張できる。しかし、Cが知らなかった(善意である)ときには、その主張はできない。悪意の場合には、善意の場合に比べて法的に保護を受ける効果が劣るのである。
地上権
土地賃借権と地上権は非常によく似ているが、次のような違いがある。 1.土地賃借権は債権だが、地上権は物権である
2.地上権は、土地所有者の承諾がなくても、他人に譲渡することができる。
3.地上権を設定した土地所有者には登記義務があるので、地上権は土地登記簿に登記されているのが一般的である。
賃借権
賃借権は債権であるので、 1.登記しなければ第三者に対抗できない(賃貸人に登記義務はなく、登記がなければ対抗要件を欠くので、例えば目的物が譲渡されると新たな所有者は賃借権に拘束されない) 2.賃貸人の承諾なしに賃借権の譲渡・転貸ができない(承諾なしに第三者に使用・収益させたときには賃貸人は契約を解除できる) など、物権に比べて法的な効力は弱い。
しかし、不動産の賃借権は生活の基盤であるため、賃借人の保護のために不動産の賃借権について特別の扱いを定めている(賃借権の物権化)。 すなわち、対抗力については、借地に関してはその上の建物の保存登記、借家に関しては建物の引渡しによって要件を満たすこととした。また、譲渡・転貸の承諾については、借地に関しては、建物買取請求権を付与し、さらには裁判所による承諾に代わる譲渡等の許可の制度を設け、借家に関しては造作買取請求権を付与した(いずれも強行規定である)。
そのほか、契約の更新拒絶や解約において貸主の正当事由を要件とすることを法定化し、判例においては、賃借権の無断譲渡・転貸を理由とした契約解除を厳しく制限する、賃借権にもとづく妨害排除請求権を承認するなど賃借人保護に配慮している。
一方で、借地借家の供給促進の観点から定期借地権、定期借家権が創設され、賃借権の多様化が進みつつある。
不動産
定着物とは、土地の上に定着した物であり、具体的には、建物、樹木、移動困難な庭石などである。また土砂は土地そのものである。
動産
そして不動産とは「土地及びその定着物」とされているので、動産とは「土地及びその定着物ではない物」ということができる。
特に重要なのは、不動産に付属させられている動産(例えば家屋に取り付けられているエアコンなど)である。このような動産は「従物(じゅうぶつ)」に該当し、不動産実務でよく問題となる(詳しくは従物、付加一体物へ)。
賃貸借
民法では、あらゆる賃貸借契約について、 1.契約期間は最長でも50年を超えることができない、2.存続期間の定めがない場合にはいつでも解約の申し出ができる、3.賃貸人の承諾がない限り賃借人は賃借権の譲渡・転貸ができない、4.目的物が不動産の場合には賃借人は登記がない限り第三者に対抗できない 等と規定している。
しかしながら、不動産の賃貸借は通常は長期にわたり、また、居住の安定を確保するために賃借人を保護すべしという社会的な要請も強い。そこで、不動産の賃貸借については、民法の一般原則をそのまま適用せず、その特例として、 1.契約期間を延長し借地については最低30年とする、2.契約の更新を拒絶するには正当事由を必要とする、3.裁判所の許可による賃借権の譲渡を可能にする、4.登記がない場合にも一定の要件のもとで対抗力を認める 等の規定を適用することとされている(借地借家法。なお、契約期間等については、定期借地権など特別の契約について例外がある)。
所有の意思をもって物を一定期間占有したとき、その物の所有権を取得することができるという時効の制度である(民法第162条)。
占有を開始した時点において自己の物であると信じ、そう信じるにつき無過失(善意かつ無過失)であれば、10年間の時効期間の経過により所有権を取得することができ、これを短期取得時効という(民法第162条第2項)。
これに対して、占有を開始した時点において悪意または有過失であれば、20年間の時効期間の経過により所有権を取得することができ、これを長期取得時効という。
短期取得時効の成立要件は次のとおりである。
(地上権・賃借権の取得時効については、所有権以外の財産権の取得時効へ)
1.物を占有すること
物とは原則的に「他人の物」であるが、「自分の物」であってもよい。時効は、そもそも継続した事実状態と法律関係を一致させようとする法制度であるため、自分の物を長期間占有したという継続した事実状態を主張することは当然に可能である(判例)。また、物とは国の財産であってもよい(例えば使用が廃止された国有水路など)。
物とは不動産でも動産でもよいが、動産については即時取得の制度が適用されるので、通常は動産について取得時効が問題になることはあまり考えられない。
2.10年間の時効期間が経過すること
占有が10年継続する必要がある。占有者が占有を中止したり、他人によって占有を奪われた場合には、その時点で時効の進行は中断する(つまり振り出しに戻る)。
また時効期間の計算では、占有を実際に開始した時点から起算する必要があり、占有の途中から起算することは許されないとするのが判例である。
3.平穏かつ公然に占有すること
通常は平穏かつ公然に占有しているものと推定されるのであまり問題とならない。真の所有権者であると主張する者が占有者に抗議したとしても「平穏な占有」である。
4.所有の意思をもって占有すること
所有権者と同様に物を支配する意思をもって占有することが必要である。土地賃貸借契約によって占有する場合には、その占有はあくまで賃借人としての占有にすぎないので、原則として「所有の意思」をもってする占有とはならない。
5.占有の始めにおいて善意かつ無過失であること
実際に占有を開始した時点において自己の不動産であると信じ、そう信じるについて過失がないことが必要である。ただし、占有の途中で自己の不動産ではないと気付いたとしても問題にはならない(あくまで占有開始時点で善意・無過失であればよい)。