債権差押
さいけんさしおさえ
債務者が有する金銭債権から、債権者が満足を得る手続きのこと。債務者の財産に対する強制執行の一つである。
債権差押では、債務者が保有する金銭債権が対象になる。例えば、債務者が銀行に預けている預金(預金債権)、債務者が取引先に請求できる売掛金(売掛金債権)、債務者が勤務先に請求できる給与(給与債権)など、いろいろな金銭債権が差押え可能である。
債権を実際に差し押さえる手続きは次のとおりである。
仮に、債務者Aが債権者Bから金銭を借りており、債権者Bが債務者AのC銀行の預金口座を差し押さえると想定する。債権者Bは、まず債務者Aの住所地を管轄する地方裁判所に、債権差押命令の申立てを行なう。これを受けた裁判所では、債務者Aが預金債権を有している相手方であるC銀行(これを「第三債務者」と表現する)に対して、債権差押命令を郵送する。
この命令が送達されてから1週間が経過すると、債権者Bは、C銀行に対して預金を自己(B)に支払うように請求することが可能となる。このようにして債権者Bは満足を得ることができる。
なお、債権差押に類似した手続きとして「転付命令(てんぷめいれい)」がある。
金銭債権
金銭の支払いを受けることを目的とした債権をいう。
例えば、売掛金、貸金、不動産賃料、預金などはすべて金銭債権である。
金銭債権を流動化する手法(債権を早期に現金化する手法でもある)として、売掛債権、貸金債権、不動産賃料債権などを信託し、その受益権を金融商品として販売することが行なわれている。住宅ローン債権の流動化も、その一つである。
金銭債権は特約がない限り、貨幣価値の変動を顧慮する必要はなく(ただし一般的に利息の負担を伴う)、不可抗力による履行遅延が免責されないなどの特徴があるが、その特徴は金銭債権を裏付けにした金融商品にも反映されることとなる。
強制執行
債務者に給付義務を強制的に履行させる手続きのことを「強制執行」という。
強制執行を行なうには、公的機関が作成した確定判決などの文書(債務名義)が必要であり、またその債務名義に「執行文」が記載されていることが必要である。
強制執行は、金銭執行と非金銭執行に分類される。
金銭執行とは、債務者の財産を差し押さえて(さらには競売により換価して)、金銭を債権者に交付するような強制執行である。代表的な金銭執行としては「強制競売」と「債権差押」がある。
また非金銭執行とは、金銭債権以外の債権(例えば土地引渡請求権)を実現するために行なわれる等の強制執行である。
なお、債務者(または物上保証人)の不動産に抵当権を設定している債権者が、その抵当権にもとづき不動産を競売することは、「任意競売」と呼ばれる。しかし任意競売は、強制執行には含まれない。また、任意競売では「抵当権の存在を証する文書」は要求されるが、「債務名義」は必要ではない。
債権
私法上の概念で、ある人(債権者)が、別のある人(債務者)に対して一定の給付を請求し、それを受領・保持することができる権利をいう。
財産権の一つであり、物権とともにその主要部分を構成する。
転付命令
債務者の預金などを債権者へ直接的に移すのと同じ効果を生じる手続きのこと。債務者の財産に対する強制執行の一つである。
実際に預金から債権を取り立てる一般的な手続きとしては債権差押がある。
仮に、債務者Aが債権者Bから金銭を借りており、債権者Bが債務者AのC銀行の預金口座を差し押さえるものとしよう。債権者Bは、まず債務者Aの住所地を管轄する地方裁判所に、債権差押命令の申立てを行ない、裁判所がC銀行に対して、債権差押命令を郵送し、差押命令の送達から1週間が経過すると、債権者Bは、C銀行に対して預金を自己(B)に支払うように請求することが可能となる。このような手続きが債権差押である。
しかしこの債権差押では、C銀行は一定の事情(例えば、ほかにも同じ預金を差し押さえた別の債権者Dがいるなどの事情)があるときは、C銀行は債権者Bに対して預金を支払うことができない。このように債権差押では、目的とする預金から必ず満足を得られるとは限らないという不都合がある。
そこで、債権者Bは、債務者Aの預金を直接的に自己(B)に移すように求めることができる。この手続きを転付命令という。上記例では、債権者Bが裁判所に債権差押命令の申立てを行なうと同時に、転付命令の申立てを行なうことができる。この転付命令がC銀行に送達されると、その時点から、預金そのものが債権者Bに移されたのと同じ効果が生じ、債権者Bは他の債権者に優先して、預金から返済を受けることができるようになる。
このように転付命令には、債権者が他の債権者に優先して満足を得ることができるというメリットがあるので、預金のように存在が確実な財産から債権を取り立てる場合には、転付命令を取得することが望ましいとされている。