最終更新日:2023/10/24
抵当権者の同意により賃借権に対抗力を与える制度
ていとうけんしゃのどういによりちんしゃくけんにたいこうりょくをあたえるせいど抵当権設定登記以後に設定された賃借権について、抵当権者の同意のもとに、賃借権が抵当権に対抗できるものとする制度のこと。
この制度は、改正後の民法387条に規定されており、2004(平成16)年4月1日よりスタートした。
1.制度の趣旨
ある不動産に抵当権が設定された場合、抵当権設定登記がなされた後に設定された賃貸借は本来ならばすべて抵当権に劣後するのが原則である。
従って本来は、融資返済不能などの事情によって抵当権が実行された(すなわち抵当不動産が競売された)場合には、抵当不動産の賃借権者はその賃借権を抵当権者に主張することができないはずであり、抵当不動産の競落後には賃借権者は当該不動産を直ちに明け渡さなければならないのが原則である。
こうした競売に伴う賃借人の不利益を緩和するための措置として、建物賃貸借に関しては、6ヵ月間の建物明渡猶予制度が置かれているが、やはり猶予期間経過後には必ず立ち退かなければならないという不都合がある。
そこで、一定の条件を満たした賃借人については、競売にかかわらず立退きをしなくてよいとする本制度が創設されたものである。
2.制度の内容
次の条件をすべて満たした賃借権については、賃借人は常に抵当権者に対抗できる(つまり、競売がなされても従前のとおり賃貸借を継続できる)とするものである。
1)その賃借権が正式に登記されていること
2)抵当権者全員の同意があること(ただし当該賃借権に劣後する抵当権者の同意は不要)
3)上記2)の同意が登記されたこと
3.制度における敷金の継承
この制度により、上記1)・2)・3)の条件をすべて満たした賃借人は、競売にかかわらず従前のとおり賃貸借を継続することができる。そのため、競売における買受人は、従前の賃貸人(=すなわち旧不動産所有者)の賃貸借に関する義務をそのまま継承することとなる。
従ってこの制度の適用下では、賃借人は競売後において将来的に自発的に退去しようとする際には、敷金の返還を買受人に対して主張することが可能となる。
こうした事態が予想されるので、上記ア)の賃借権の登記においては、敷金が登記すべき事項に加えられており、買受人の便宜を図っている(改正後の不動産登記法第81条第4項)。
抵当権
賃借権
賃借権は債権であるので、 1.登記しなければ第三者に対抗できない(賃貸人に登記義務はなく、登記がなければ対抗要件を欠くので、例えば目的物が譲渡されると新たな所有者は賃借権に拘束されない) 2.賃貸人の承諾なしに賃借権の譲渡・転貸ができない(承諾なしに第三者に使用・収益させたときには賃貸人は契約を解除できる) など、物権に比べて法的な効力は弱い。
しかし、不動産の賃借権は生活の基盤であるため、賃借人の保護のために不動産の賃借権について特別の扱いを定めている(賃借権の物権化)。 すなわち、対抗力については、借地に関してはその上の建物の保存登記、借家に関しては建物の引渡しによって要件を満たすこととした。また、譲渡・転貸の承諾については、借地に関しては、建物買取請求権を付与し、さらには裁判所による承諾に代わる譲渡等の許可の制度を設け、借家に関しては造作買取請求権を付与した(いずれも強行規定である)。
そのほか、契約の更新拒絶や解約において貸主の正当事由を要件とすることを法定化し、判例においては、賃借権の無断譲渡・転貸を理由とした契約解除を厳しく制限する、賃借権にもとづく妨害排除請求権を承認するなど賃借人保護に配慮している。
一方で、借地借家の供給促進の観点から定期借地権、定期借家権が創設され、賃借権の多様化が進みつつある。
抵当権者
Aが債権を保全する目的のために、第三者(C)の財産に対してAが抵当権を設定することがあるが、このときもAは「抵当権者」と呼ばれる。また、このとき第三者Cは「物上保証人」と呼ばれる。
不動産
定着物とは、土地の上に定着した物であり、具体的には、建物、樹木、移動困難な庭石などである。また土砂は土地そのものである。
賃貸借
民法では、あらゆる賃貸借契約について、 1.契約期間は最長でも50年を超えることができない、2.存続期間の定めがない場合にはいつでも解約の申し出ができる、3.賃貸人の承諾がない限り賃借人は賃借権の譲渡・転貸ができない、4.目的物が不動産の場合には賃借人は登記がない限り第三者に対抗できない 等と規定している。
しかしながら、不動産の賃貸借は通常は長期にわたり、また、居住の安定を確保するために賃借人を保護すべしという社会的な要請も強い。そこで、不動産の賃貸借については、民法の一般原則をそのまま適用せず、その特例として、 1.契約期間を延長し借地については最低30年とする、2.契約の更新を拒絶するには正当事由を必要とする、3.裁判所の許可による賃借権の譲渡を可能にする、4.登記がない場合にも一定の要件のもとで対抗力を認める 等の規定を適用することとされている(借地借家法。なお、契約期間等については、定期借地権など特別の契約について例外がある)。
競売
建物
建物明渡猶予制度
民法の改正により、2004(平成16)年4月1日に創設された制度である。根拠条文は改正後の民法395条である。
1.建物明渡猶予制度の趣旨
ある不動産に抵当権が設定された場合、抵当権設定登記がなされた後に設定された賃貸借は、本来ならばすべて抵当権に劣後するのが原則である。
従って本来は、融資返済不能などの事情によって抵当権が実行された(すなわち抵当不動産が競売された)場合には、抵当不動産の賃借権者はその賃借権を抵当権者に主張することができないはずであり、抵当不動産の競落後には賃借権者は当該不動産を直ちに明け渡さなければならないのが原則である。
しかしこれでは、正常に当該抵当不動産を利用していた賃借人も直ちに明け渡しに応じなければならないこととなり、賃借人にとって競売という不測の事態により思わぬ損害を受ける可能性がある。
こうした不都合を緩和するための措置として、従来は短期賃貸借保護制度が置かれていたが、民法改正によりこの制度は2004(平成16)年3月31日をもって原則的に廃止された。そこで、これに代わって創設されたのが建物明渡猶予制度である。
2.建物明渡猶予制度の内容
改正後の民法395条に規定されている建物明渡猶予制度では、建物賃借人は、建物の競売による代金を競売の買受人が納付した日から6ヵ月間は、当該建物の明渡しを合法的に拒むことができる。
この明渡しを拒む期間中は、建物所有者である買受人に対して、占有者(すなわち建物賃借人)は賃料と同額の金銭を買受人に支払う義務を負う。仮に、占有者が買受人からこの金銭の支払いを督促されたにもかかわらずこれを支払わない場合には、占有者はもはや明渡しを拒むことができなくなる(改正後の民法第395条第2項)。
3.抵当権者の同意により賃借権に対抗力を与える制度
以上のような建物明渡猶予制度のほかに、建物の競売がなされた際に立退きをすることなく賃貸借を継続できるという制度が、2004(平成16)年4月1日より設けられている。これは、改正後の民法387条に規定されている「抵当権者の同意により賃借権に対抗力を与える制度」である(詳しくは抵当権者の同意により賃借権に対抗力を与える制度へ)。
敷金
1.賃料の不払い・未払いに対する担保
2.契約により借主が負担すべき修繕費用や原状回復費用の前払い
将来契約が終了した場合には、上記1や2の金額を控除した残額が、借主に対して退去後に返還される。なお、関西等では「敷引」の慣行がある。