最終更新日:2017/12/8
実質投資主名簿
じっしつとうしぬしめいぼ不動産投資信託の投資法人において、投資主が保管振替制度を利用している場合に、証券保管振替機構からの通知にもとづいて投資法人が作成する名簿のこと。
保管振替制度とは、上場株券の保管・受渡しを合理化するために、1991(平成3)年から実施されている制度である。すべての上場株式がこの制度の適用を受けており、投資証券もこの制度の適用を受ける。
投資主がこの保管振替制度を利用している場合、投資証券の券面上の名義人は便宜的に「証券保管振替機構」とされている。
そのため、投資法人が作成する投資主名簿上では、保管振替制度適用分については、「証券保管振替機構」が便宜上の投資主とされる。
従って、実際に投資口の権利を持つ個々の投資主の住所氏名等を、投資法人が管理するには、別の名簿を作成する必要性が生じることになる。このような管理目的で作成される名簿が「実質投資主名簿」である。
この「実質投資主名簿」の作成方法は次のとおり。
まず、投資法人の規約で定める「権利確定日」までに、証券保管振替機構(および個々の投資主が取引口座を有する証券会社)が、個々の投資主の住所氏名等を、投資法人へと通知する。
次に、投資法人が、振替機構(および証券会社)から通知された個々の投資主の住所氏名等の情報をもとに「実質投資主名簿」を作成する。
このようにして作成された「実質投資主名簿」に記載された投資主は、分配金を受け取る権利を取得し、投資主総会に出席する権利を獲得する。
従って、このような実質投資主名簿の存在によって、保管振替制度を利用する投資主は、自己の投資主としての権利を確実に行使できるようになるということができる。
なお権利確定日は、各投資法人の「規約」で定められているが、通常は権利確定日とは「決算日」のことである(詳しくは「権利落ち」へ)。
不動産投資信託
不動産投資信託は、不動産の証券化手法の一つであり、その仕組みとして、 1.資金を信託したうえでその資金を不動産投資として運用する方法(契約型) 2.投資家が特定の法人を設立して不動産投資を行なう方法(会社型) とがある。実際に日本で行なわれている不動産投資信託の大部分は会社型であり、その担い手を投資法人と呼ぶ。
投資信託によって得る利益の原資は、投資対象となる不動産の賃料等から得られる収益である。また、不動産の証券化に当たっては、倒産隔離、導管体機能などを確保することが必要となるが、投資信託は、制度的にこれらの要請を満たしている。
不動産投資信託は、日本では2000(平成12)年に解禁された。また、会社型の不動産投資信託は証券取引所に上場することができるとされ(銘柄は投資法人、上場して取引されるのは投資口である)、初めて上場したのは2001(平成13)年9月10日である。
投資法人(投資信託における)
投資法人の設立には内閣総理大臣への登録が必要で、出資総額は1億円以上とされるなど、一定の要件を満たさなければならない。また、投資法人は、投資主に対して会計情報等を開示するなど、その業務運営に関して規制があり、金融商品取引法等によって金融庁等の監督を受ける。
なお、投資法人による投資運用は、実際には、投資信託委託業者が行なっている。例えば、不動産投資信託(JREIT)の場合には、不動産と金融に詳しい専門家がこれに当たることが多い。
投資主(投資信託における)
会社型投資信託は金融商品の一つとして販売されているが、その投資口(株式会社における株式に相当する)を購入した者が投資主である。投資主は、投資法人の構成員となる。
投資主には、投資運用の結果得られた利益を分配金として受け取ること、投資主総会において議決権を行使すること、代表訴訟(投資信託委託業者、執行役員等に対する訴訟)の提起権や総会決議取消請求権を行使することなど、一定の権利が与えられている。
保管振替制度
しかし、株券電子化によってこの制度は発展的に廃止され、2009(平成21)年1月5日からはすべての株券等は口座によって管理され、振替機関による口座間の振替えによって売買されることとなった(「株券電子化」を参照)。
保管振替制度は、顧客が株券等を証券会社等に預託し(保護預り)、証券会社等は、顧客の承諾を得て預託された株券等をさらに保管振替機関に預託するという仕組みによって運営されていた。保管振替機関は、唯一、証券保管振替機構(ほふり)のみが指定されていたが、株券等電子化後の振替機関も証券保管振替機構のみ指定を受けている。
保管振替制度のもとでは、各顧客は顧客口座簿によって管理され、 1.株券等の売買は口座簿の記載内容の変更によって
2.配当、議決権などの権利行使は口座簿に従って顧客名が株式会社等に通知されること(実質株主等の通知)によって なされていた。株券電子化は、このような制度の活用が大幅に進展した結果実現したのである(08年3月末には、全株券の84%が証券保管振替機構によって管理されている)。
なお、この制度の対象となる有価証券は、金融商品取引所に上場されている株式、新株予約権、新株予約権付社債、投資口、優先出資、投資信託受益権およびそれらに準ずるものであって、発行者の同意を得たものとされている。
証券保管振替機構
2008(平成20年)年時点で発行株式の総数に対する預託率は9割超であった。2009(平成21)年1月5日からはすべての株券等は口座によって管理され、振替機関による口座間の振替えによって売買されることとなっている(「株券電子化」を参照)。
1984(昭和59)年11月に「株券等の保管及び振替に関する法律」が施行され、この法律にもとづき、1991(平成3)年10月より「保管振替制度」が実施されていた。
証券保管振替機構は、この保管振替制度にもとづくわが国唯一の保管振替機関であり、わが国の公開会社の発行済株式のうち90%以上の株券を預託されていた。
また2004(平成16)年時点、証券保管振替機構の取扱会社数は4,000社近くにのぼり、すべての公開会社の発行する株券等が取扱い対象となっていた。
証券保管振替機構の保管対象とする証券は、「上場株」「店頭株」「転換社債」「転換社債型新株予約権付社債」「株価指数連動型投資信託受益証券(ETF)」「投資証券」などである。
なお、証券保管振替機構の組織形態は当初は財団法人であったが、2002(平成14)年4月より株式会社に移行した。現在の正式名称は「株式会社証券保管振替機構」である。
投資証券
普通の株式会社でいえば「株券」に相当する。
投資法人は、投資主で構成される法人である。投資主の権利は、保有する投資口に由来している。普通の株式会社でいえば、投資主は「株主」、投資口は「株式」に相当する。
このような投資主の地位(すなわち投資口の権利)を表した証券が、「投資証券」と呼ばれている。
投資法人は、法人設立の際または新投資口の発行の際に、投資証券を新たに発行して、投資主に交付する。
また、証券取引所で不動産投資信託を売買する場合には、不動産投資信託を購入した投資主は、以前の投資主から、既存の投資証券を受け渡されることになる。
ただし実際には、投資証券そのものの交付や受け渡しは原則として行なわれず、「証券保管振替機構」において投資証券が一括保管されることになっている(詳しくは保管振替制度へ)。
権利確定日
株主は会社に対して、配当請求権などの株主の権利を行使することができるが、この株主の権利を行使するためには、会社側が設定する一定の期日において株主であることが必要とされている。この一定の期日を「権利確定日」と呼んでいる。
不動産投資信託においても同じように「権利確定日」が設定されている。
例えば、ある上場不動産投資信託において、投資法人がその決算日である「2004年6月30日(水曜日)」を権利確定日に指定したとする。
この場合、この投資法人から分配金を受け取るためには、投資主は「04年6月30日」において投資主として名簿に登録されている必要がある(一般的には投資主は保管振替制度を利用するので、投資主の氏名が「実質投資主名簿」に登録される必要がある)。
ただし、ここで注意しておきたいのは、権利確定日において実質投資主名簿に氏名が記載されるためには、投資口の購入は、3営業日を挟んで、それより前に購入を終えておかなければならないということである。つまり上記の例でいえば、「04年6月24日(木曜日)の午後3時」までに証券取引所で投資口の購入が成立する必要がある。
これは、上場株式や上場不動産投資信託の場合には、証券取引所を通じて売買するため、代金決済などの関係から3日間の空白が生じるからである。上記の例でいえば、6月25日(金曜日)、6月28日(月曜日)、6月29日(火曜日)という3営業日が空白期間ということになる。
(詳しくは「権利落ち」へ)
分配金
分配金は、投資法人の会計期間の終了後に支払われる。不動産投資信託の投資法人の会計期間は通常6ヵ月に設定されているので、不動産投資信託の購入者(すなわち投資主)は、通常、年2回「分配金」を受け取ることができる。
分配金の原資となるのは原則として、投資法人の「当期純利益」である。当期純利益とは、その会計期間中の所得(税引前当期利益)から、法人税等を差し引いた後に残る、最終的な利益を指している。
また分配金の原資に関しては、出資総額(通常の会社でいえば資本金・資本準備金に相当)を原資に充てることも法律上は可能である。これは「出資の払い戻し」と呼ばれる。ただし現在のところ、上場されている不動産投資信託では出資の払い戻しは行なわれていない。
ところで、投資法人には投資法人の課税の特例(租税特別措置法第67条の15)により、法人税が事実上ほぼ免除されるという特長がある。
すなわち投資法人では、税引前当期利益(税法上の所得)の90%超に相当する額を、投資主へ分配金として支払うならば、その分配金に相当する額を法人税法上の「経費」として計上することができる。
具体的には、例えばある投資法人の1会計期間(6ヵ月)の税引前当期利益(税法上の所得)が100億円、分配金が99億円、法人税等の税率が40%であったとしよう。
この場合、分配金を損金(経費)扱いできるので、投資法人が支払うべき法人税等は(100億円−99億円)×40%=4,000万円となる。その結果、当期純利益は100億円から4,000万円を差し引いた残額、すなわち99億6,000万円となる。
このような「投資法人の課税の特例」により、法人税等が事実上ほぼ免除されるので、投資法人では「税引前当期利益」、「分配金」、「当期純利益」がほぼ等しいという現象が起きる。上記の設例でいえば、税引前当期利益は100億円、分配金は99億円、当期純利益は99億6,000万円である。
実際に、上場されている不動産投資信託では、税引前当期利益(税法上の所得)の100%近くを分配金に充てていることが多い。
なお、分配金の金額は、会計期間終了後2ヵ月以内に投資法人の役員会で正式に決定される。
上場された不動産投資信託の過去の実績を見ると、投資口価格(いわゆる株価に相当)に対して3〜5%に相当する金額が、(投資口1口当たりの)分配金の1年間の合計として支払われている。
投資主総会
不動産投資信託には大きく分けて会社型と契約型があるが、証券取引所に上場されている不動産投資信託はすべて会社型である。
会社型投資信託における投資の主体は「投資法人」という法人である。投資法人の業務執行は役員(執行役員など)が実施するが、一定の重要な事項については数年に一度、投資主の総会を開催して、投資主の議決を経なければならない。このような総会が「投資主総会」である。
投資主総会の開催方法は投資法人の「規約」に定められるが、一般的には、役員の任期に合わせて2年に一度開催するものとされている。
実際に投資主総会で議決される案件には、次のようなものがある。 1.役員(執行役員、監査役員)の選任・解任
2.会計監査人の選任・解任
3.規約の変更
権利落ち
株主は会社に対して、配当請求権などの権利を行使することができるが、この株主の権利を行使するためには、会社側が設定する一定の期日において株主であることが必要とされている。この一定の期日は「権利確定日」と呼ばれている(通常、権利確定日は決算日と同じ日である)。
ただし、上場株式・上場されている不動産投資信託の場合には、配当や分配金を受け取るためには、権利確定日から3営業日を挟んで、それより前に購入しておくことが必要とされる。これは、証券取引所を通じて売買する都合上、代金の決済等に3営業日が必要とされるためである。
具体例で説明しよう。ある上場不動産投資信託において、投資法人がその決算日である「2004年6月30日(水曜日)」を権利確定日に指定したとする。この場合、次のような日程となる。
6月24日(木曜日)権利付き最終日
6月25日(金曜日)権利落ち日
6月26日(土曜日)休業日
6月27日(日曜日)休業日
6月28日(月曜日)
6月29日(火曜日)
6月30日(水曜日)権利確定日(=決算日)
このように、6月25日(金曜日)、6月28日(月曜日)、6月29日(火曜日)という3営業日が代金決済等のために必要な期間である。従って、分配金を受け取る権利を取得するには「04年6月24日(木曜日)午後3時」までに証券取引所で投資口の売買を成立させておく必要があるのである。
このとき、分配金の権利を取得できる最後の日(6月24日)は「権利付き最終日」、その反対に分配金の権利をもはや取得できない最初の日(6月25日)は「権利落ち日」と呼ばれている。
このようにわずか1日の違いで、分配金の有無が分かれるため、「権利付き最終日」と「権利落ち日」では、投資口の取引価格に差が生じることが多い。
例えば、上記の例で6月24日の投資口の取引価格が55万円、投資家が期待する分配金(=1会計期間である6ヵ月分の分配金)が投資口1口当たり1万円であったとしよう。この場合、翌日の6月25日には、投資口の取引価格が54万円になるという可能性が考えられる。
ただし、実際には投資口の取引価格は、その投資法人の将来の業績を反映するものであるので、決算日に業績の上方修正の公表が期待される場合には、権利落ち日になっても、取引価格があまり下がらない場合もありうる。
例えば上記の例で、その投資法人が次のように予想分配金を公表するものと仮定しよう。
1.04年2月下旬
前期(03年7〜12月)の決算(確定値)の発表が行なわれた。それと同時に、今期(04年1〜6月)の予想分配金を公表した。このとき予想分配金は「1万円」とされていた。
2.04年6月30日(証券市場終了時間より後)
今期(04年1〜6月)の予想分配金を上方に修正して公表した。修正後の予想分配金は「1万7,000円」とされた(すなわち7,000円の上方修正)。
仮に、このように予想分配金が6月30日に大きく上方修正されるとすると、6月25日の権利落ち日においては、投資家の多くがこの上方修正を期待しているならば、投資口の取引価格はさほど下がらない可能性がある。
もちろん6月25日の時点では、6月30日の上方修正は、投資家は知らないのであるが、実際には投資口の取引価格は将来を織り込んで形成されるため、このような現象が起きる場合があり得る。