最終更新日:2017/12/8
新証券税制
しんしょうけんぜいせい2003(平成15)年1月1日以降の上場株式・店頭株式・上場不動産投資信託の譲渡益等に対して適用される所得税等の仕組みのこと。
「申告分離課税への一本化」、「特定口座」、「譲渡損失の繰越控除」を主な内容としている。
1.申告分離課税への一本化
2002(平成14)年末までは、株式譲渡益に対する所得税の課税方法は、売却代金の1.05%の納税ですべて完結するという「源泉分離課税」の制度が存在していた(詳しくは源泉分離課税へ)。
しかし、「源泉分離課税」の制度は2002(平成14)年末をもって廃止されたため、2003(平成15)年1月1日以降の上場株式・店頭株式・上場不動産投資信託の売却による利益については、個人投資家が自ら確定申告を行なって納税するという「申告分離課税」の制度のみが適用されている。
この申告分離課税の制度では、上場株式・店頭株式・上場不動産投資信託の売却益に対して、他の所得と分離して、20%(所得税15%、住民税5%)の税率で課税される。
ただし、2003(平成15)年1月1日から2011(平成23)年12月31日までの時限的な優遇措置として、この分離課税の税率は10% (所得税7%、住民税3%)へと軽減されている。
2.特定口座
上記のように申告分離課税が導入されたため、上場株式等への投資をする個人投資家は、必ず税務署に対して確定申告書を提出しなければならない。しかし、確定申告の手続きは非常に手間がかかり、個人投資家に大きな負担を強いるものであった。
そこで、個人投資家の取引口座を持っている証券会社が、取引口座の売買データをもとにして、個人投資家の代わりに税務署に対して確定申告を行なうなどの簡便な申告制度が導入された。これを「特定口座」と呼んでいる。
個人投資家が自己の取引口座を「特定口座」に指定すると、証券会社では毎月の株式等の売買履歴をもとにして毎月の売却益を計算し、証券会社が個人投資家の取引口座から、売却益に対応する税額(売却益の10%)を自動的に徴収(天引き)する。
ただし特定口座には、毎月の売買履歴から売却益を計算するだけにとどめて、証券会社による税額の天引きを行なわないという方式のものも存在する。
前者は「特定口座(源泉徴収あり)」、後者は「特定口座(源泉徴収なし)」として区別されている(詳しくは特定口座へ)。
3.上場株式等の譲渡損失の繰越控除
上場株式・店頭株式・上場不動産投資信託の取引に係る売却損を、損失が生じた翌年以降の3年間にわたって、株式等に係る譲渡所得の金額から控除できるという制度。
2003(平成15)年1月1日に導入された新制度である(詳しくは上場株式等の譲渡損失の繰越控除へ)。
申告分離課税
上場株式等の売却益は、給与所得・事業所得・不動産所得とは別に、独自の「譲渡所得」として課税される仕組みになっており、これを「分離課税」という。
分離課税の場合には、給与所得等の額にかかわらず、税率は原則20.315%(所得税および復興特別所得税(※)15.315%、住民税5%)である。また、源泉徴収口座(後述)を選択した場合以外は、必ず確定申告を行なわなければならない。
※2013(平成25)年から2037(令和19)年までは、復興特別所得税として各年分の基準所得税額の2.1%を申告・納付しなければならない。
また、申告分離課税において、個人投資家が自ら確定申告を行なうという手続き負担を軽減するために「特定口座」の制度(金融商品取引業者等が年間の譲渡損益を計算する制度)が設けられている。特定口座には、証券会社が納税まで代行する「源泉徴収口座」と、証券会社が売却益の計算だけを行なう「簡易申告口座」がある。
なお、申告分離課税制度は、山林所得、土地建物等の譲渡による譲渡所得、一定の先物取引による雑所得等についても適用されている。
源泉分離課税
その対象となる所得は、利子所得、投資信託の収益分配金など(一部例外がある)であり、課税率は20.315%(一部例外あり)である。
確定申告
一般の勤労者の場合は、毎月の給料と賞与から所得税が自動的に源泉徴収され、さらに年末調整によって所得税の納税が完了する。
従って通常は、一般の勤労者は所得税の納税について確定申告を自ら行なう必要はない。
しかし、住宅ローン控除を1年目に受ける場合、給与を2ヵ所以上から受けている場合、医療費控除を受ける場合などには、勤労者が自ら住所地の税務署に出向いて、またはインターネットサイトから確定申告を行なう必要がある。 確定申告書の記入は一般の個人には非常に難しい。そこで確定申告の時期には、各税務署の中で、地元の税理士会に所属する税理士たちが無償で個人の相談に乗り、確定申告書の記入を無償で代行している。
確定申告は、毎年2月16日から3月15日までに行なうこととされている。ただし、所得税の還付を受ける場合には、2月16日以前でも確定申告を行なうことができる。
なお、不動産の貸付けによる所得(不動産所得という)がある個人は、必ず確定申告を行なう必要がある(詳しくは「青色申告」、「白色申告」へ)。
特定口座
1.特定口座の概要
個人投資家は、自己の取引口座のある証券会社に「特定口座開設届出書」を提出することによって、自己の取引口座を「特定口座」として指定することができる(ちなみに、特定口座に指定されていない取引口座は「一般口座」と呼ばれる)。
特定口座は、証券会社に一つだけ開設することができる。複数の証券会社に取引口座がある場合には、それぞれの証券会社でそれぞれ一つずつ開設することができる。
こうして個人投資家が特定口座を持つと、証券会社は個人投資家の上場株式・店頭株式・上場不動産投資信託の売却益(または売却損)を毎月末締めで自動的に計算する。さらに、1年間の取引結果が「年間取引報告書」にまとめられて、翌年1月末頃に個人投資家の手元に届けられることになる。
2.「特定口座(源泉徴収あり)」の特徴
このような特定口座は、所得税額・住民税額の天引きをするかどうかによって、「特定口座(源泉徴収あり)」と「特定口座(源泉徴収なし)」という2種類に分かれている。
「特定口座(源泉徴収あり)」とは、証券会社が毎月の取引から生じた売却益に係る所得税額・住民税額(現行では税率10%)を、毎月末締めで自動的に顧客口座から天引きするという方式である。ただし、ある月に売却損が生じた場合には、その売却損は翌月以降に持ちされて翌月以降の売却益と相殺される仕組みとなっている。
この月末締めで天引き(源泉徴収)された金銭は、証券会社が翌月10日までに税務署に納税する。この納税により、証券会社が個人投資家の確定申告を代行することになるので、個人投資家自身は税務署で申告手続をする手間を省くことができるというメリットがある。
個人投資家は「特定口座開設届出書」を提出する際に、「特定口座源泉徴収選択届出書」を併せて提出することによって、この方式の適用を受けることができる。
なお、個人投資家がその年において売却損を被り、「上場株式等の譲渡損失の繰越控除」の適用を希望する場合には、「特定口座(源泉徴収あり)」を選択している場合であっても、自分自身で確定申告をしなければならないことに注意したい。
3.「特定口座(源泉徴収なし)」の特徴
個人投資家が「特定口座(源泉徴収なし)」を選んだ場合には、上記のような天引き(源泉徴収)の仕組みが適用されないため、個人投資家は自分自身で税務署にて確定申告の手続きを行なわなければならない。
ただし「特定口座(源泉徴収なし)」では、1年間の取引結果が「年間取引報告書」にまとめられて、翌年1月末頃に個人投資家の手元に届けられるので、この「年間取引報告書」によって簡便な方法で確定申告手続を行なうことができるというメリットがある。
なお、「特定口座(源泉徴収なし)」で確定申告を行なう場合、上場株式等の売却益は「配偶者控除等を適用するための所得金額」に加算されてしまうというデメリットがある。
例えば、パート収入のある妻の給与所得が、配偶者控除を受けられる範囲内の給与所得であったとしても、その妻が株式売買で多額の利益を上げたならば、その利益が配偶者控除の適用の判定にあたっての妻の所得金額に加算される結果、配偶者控除の適用外と判定されることがある。
(これに対して、「特定口座(源泉徴収なし)」を選べば、株式売却益は「所得金額」に加算されないので上記のようなデメリットは生じない)
不動産投資信託
不動産投資信託は、不動産の証券化手法の一つであり、その仕組みとして、 1.資金を信託したうえでその資金を不動産投資として運用する方法(契約型) 2.投資家が特定の法人を設立して不動産投資を行なう方法(会社型) とがある。実際に日本で行なわれている不動産投資信託の大部分は会社型であり、その担い手を投資法人と呼ぶ。
投資信託によって得る利益の原資は、投資対象となる不動産の賃料等から得られる収益である。また、不動産の証券化に当たっては、倒産隔離、導管体機能などを確保することが必要となるが、投資信託は、制度的にこれらの要請を満たしている。
不動産投資信託は、日本では2000(平成12)年に解禁された。また、会社型の不動産投資信託は証券取引所に上場することができるとされ(銘柄は投資法人、上場して取引されるのは投資口である)、初めて上場したのは2001(平成13)年9月10日である。
譲渡所得
譲渡所得は、その他の所得と合算して課税されるのが原則であるが、土地や建物の譲渡所得については、株式等の譲渡所得と同様に、他の所得と分離して課税される。その課税に当たっては、土地や建物の保有期間に応じて、譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるもの(長期譲渡所得)と5年以下のもの(短期譲渡所得)とに分けられ、税率などが異なる。
上場株式等の譲渡損失の繰越控除
この制度は、まず、譲渡損失を上場株式等の配当等、利子所得の金額および配当所得の金額と損益通算し、なお控除しきれない金額について適用できる。
なお、適用に当たっては、次の注意が必要である。
1. 上場株式・店頭株式・上場不動産投資信託の譲渡損失は給与所得と相殺することはできない。また、事業所得・不動産所得と相殺することもできない。
2.「上場株式等の譲渡損失の繰越控除」の適用を受けるには必ず確定申告をする。個人投資家が「特定口座(源泉徴収あり)」を選択している場合であっても、「上場株式等の譲渡損失の繰越控除」の適用を希望する場合には確定申告しなければならない。