最終更新日:2017/12/8
手付金等の保全
てつけきんとうのほぜん物件の引渡し前に買主が支払う金銭(手付金・内金・中間金)について、第三者に保管させる等の方法で保全することを「手付金等の保全」という(宅地建物取引業法第41条・第41条の2)。
手付金・内金・中間金を合わせて「手付金等」と呼ぶ。この手付金等は、物件がまだ買主に引き渡されない時点で買主が売主に交付する金銭である。
従って、売主が物件を引き渡せない等の不測の事態が生じた場合に、手付金等は、確実に買主に返還される必要がある。そこで、宅地建物取引業法(第41条・第41条の2)では、手付金等の保全について必要な措置を規定している。
1.手付金等の金額の要件
手付金等は一定の金額に達した場合にだけ、保全措置を講じる義務が生じる。その金額の要件は次のとおり。
1)工事完了前の宅地または建物の売買の場合
「手付金等の合計が代金の額の百分の五を超えるとき」または「手付金等の合計が1,000万円を超えるとき」には、保全措置を講じなければならない。
例えば2億2,000万円の一戸建て(未完成)の売買契約に際して買主が1,050万円の手付金を交付したとする。このとき2億2,000万円の5%は「1,100万円」なので、手付金は「5%以下」であり、この点では保全措置は不要に見える。しかし、手付金は「1,000万円超」であるので、やはり保全措置が必要になる。
また、例えば3,000万円のマンション(未完成)の売買契約に際して買主が300万円の手付金を交付したとする。このとき3,000万円の5%は「150万円」なので、手付金は「5%超」であり、保全措置を講じなければならない。
2)工事完了後の宅地または建物の売買の場合
「手付金等の合計が代金の額の百分の十を超えるとき」または「手付金等の合計が1,000万円を超えるとき」には、保全措置を講じなければならない。この考え方は上記1)と同じである。
2.保全措置の内容
上記の金額の要件を満たしたとき、講じるべき保全措置は次のとおり。
1)工事完了前の宅地または建物の売買の場合
手付金等の保全措置としては「銀行等による保証」と「保険事業者による保証保険」の2種類の措置のうち、どちらか一つを講じればよい。
2)工事完了後の宅地または建物の売買の場合
手付金等の保全措置としては「銀行等による保証」と「保険事業者による保証保険」と「指定保管機関による保管」の3種類の措置のうち、どれか一つを講じればよい。
3.保全措置が不要とされる場合
次の4とおりの場合には、保全措置を講じる義務がない。
1)金額の要件を満たさない場合:
上記1.の金額の要件に到達しないならば、保全措置は不要である。
2)売主が宅地建物取引業者でない場合:
保全措置を講じる義務を負うのは宅地建物取引業者だけである
3)業者間取引である場合:
売主・買主ともに宅地建物取引業者である場合には、両者とも不動産取引に精通しているので、保全措置は不要とされる(宅地建物取引業法第78条第2項)。
4)買主がその宅地建物について登記を取得した場合:
保全措置は物件の引渡し前の措置であるので、買主が登記(所有権移転登記または所有権保存登記)を取得した場合には、もはや保全措置を講じる必要はないとされる。
4.「工事完了」の意味について
上記1.および2.では、工事完了前と工事完了後で扱いが異なる。この「工事完了」の意味については、宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方で次のように説明されている。
工事完了は「売買契約時において判断すべき」である。また、工事の完了とは「単に外観上の工事のみならず内装等の工事が完了しており、居住が可能である状態を指すものとする」。
内金
手付が売買契約が成立する際に交付されるのに対して、内金は契約成立後に交付されるという違いがある。
また、手付は契約の義務が履行されれば代金に充当されるのに対して、内金は交付される時点ですでに代金の一部である。
中間金
また、手付は契約の義務が履行されれば代金に充当されるのに対して、中間金は交付される時点ですでに代金の一部である。
宅地建物取引業法
この法律に定められている主な内容は、宅地建物取引を営業する者に対する免許制度のほか、宅地建物取引士制度、営業保証金制度、業務を実施する場合の禁止・遵守事項などである。これによって、宅地建物取引業務の適正な運営、宅地および建物の取引の公正の確保および宅地建物取引業の健全な発達の促進を図ることとされている。
手付金等
宅地建物取引業法(第41条・第41条の2)では、この手付金等を、第三者が保管するなどの方法で保全するように定めている。これは、売主が物件を引き渡せないなどの不測の事態が生じた場合に、手付金等が確実に買主に返還されるようにする目的で創設された制度である(詳しくは「手付金等の保全」へ)。
実際の不動産取引では、次の金銭が「手付金等」に含まれるかどうかが問題になる。
1.手付金:手付金は契約締結時に交付され、通常は物件引渡し時点までに(例えば残金支払いと同時に)手付金は売買代金の一部になる。従って、手付金は「手付金等」に該当する。 2.内金:内金は通常は物件引渡し前に交付される「代金の一部」のことであるので、「手付金等」に該当する。なお、内金という名称で実際は「手付金」の場合もまれにあるが、これは上記1.の理由によりやはり「手付金等」である。 3.中間金:中間金は物件引渡し前に交付される「代金の一部」のことであるので、「手付金等」に該当する。 4.残金:売買代金から、手付金、内金、中間金を差し引いた残りのことである。残金は、通常は宅地建物の登記名義の移転手続き(このとき物件の鍵も交付する)と同時に支払われる。従って、残金支払いの時点で物件が引き渡されるのが通常であるから、残金は「手付金等」に含まれないということができる。 5.申込証拠金:申込み証拠金は契約より前に買主が売主に交付する少額の金銭(通常は10万円以下)で、その目的は申込み意思の確認や、申込みの順番を確保するものである。申込み証拠金は直接的に代金の一部になるものではない。従って、申込み証拠金は「手付金等」に含まれないということができる(ただし、申込証拠金は契約と同時に「手付金」の一部になることが多い。すると、契約時点以降は上記1.の手付金に含まれることになる)。
売主
また不動産広告においては、取引態様の一つとして「売主」という用語が使用される。
この取引態様としての「売主」とは、取引される不動産の所有者(または不動産を転売する権限を有する者)のことである。
建物
売買契約
売買契約は諾成契約とされている。つまり、当事者の双方が意思を表示し、意思が合致するだけで成立する(財産が引き渡されたときに成立するのではない)。
また、売買契約は不要式契約なので、書面による必要はなく口頭でも成立する。
さらに、売買契約は財産権を移転する契約であるが、その対価として交付されるのは金銭でなければならない(金銭以外の物を対価として交付すると「交換契約」となってしまう)。
当事者の双方の意思の合致により売買契約が成立したとき、売主には「財産権移転義務」が発生し、買主には「代金支払義務」が発生する。両方の義務の履行は「同時履行の関係」に立つとされる。
宅地建物取引業者
なお、宅地建物取引業を事実上営んでいる者であっても、宅地建物取引業免許を取得していない場合には、その者は宅地建物取引業者ではない(このような者は一般に「無免許業者」と呼ばれる)。
所有権
近代市民社会の成立を支える経済的な基盤の一つは、「所有権の絶対性」であるといわれている。だが逆に、「所有権は義務を負う」とも考えられており、その絶対性は理念的なものに過ぎない。
土地所有権は、法令の制限内においてその上下に及ぶとされている。その一方で、隣接する土地との関係により権利が制限・拡張されることがあり、また、都市計画などの公共の必要による制限を受ける。さらには、私有財産は、正当な補償の下に公共のために用いることが認められており(土地収用はその例である)、これも所有権に対する制約の一つである。
宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方
従来、宅地建物取引業法の解釈・運用については、国(旧建設省)が通達・行政実例により詳細かつ統一的な基準を定めてきたが、2000(平成12)年4月1日付けで「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成11年法律第87号)が施行されたことにより、宅地建物取引業に係る事務は都道府県の自治事務等となった。
このため、2000(平成12)年4月1日をもって従来旧建設省から各都道府県に発出された宅地建物取引業法に関する通達等は一律廃止された。
しかし、これでは宅地建物取引業法の解釈・運用が国民から見て極めてわかりにくくなると考えられたので、2000(平成12)年7月25日付で建設省不動産業課(現・国土交通省不動産・建設経済局不動産業課)において「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」を策定し、各都道府県に参考通知したものである。
なお、宅地建物取引業法等に改正があったときは、この「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」もその都度改正され、各都道府県に参考通知されている。