農地法
のうちほう
農地の権利移動や転用の制限、利用関係の調整、遊休農地に関する措置などを定めた法律。1952(昭和27)年に制定された。
耕作者の地位の安定と農業生産の増大を図り、食料の安定供給の確保に資することを目的としている。
2009(平成21)年の法改正によって、農地の賃貸借に関して大幅に制限が緩和され、農業生産法人だけでなく、一般の法人、NPO等が、農地を借りて営農できるようになった。
一方、農地について所有権、賃借権等を有する者は、その適正で効率的な利用を確保する責務を負う旨の規定も追加された。
農地
一般的には「耕作の目的に供されている土地」を「農地」と呼ぶ(農地法第2条第1項)。
実際には、ある土地が「農地」であるかどうかをめぐって争いがあることが少なくない。ちなみ、過去の裁判例では次の1.2.のような基準が設けられている。
1.「農地」であるかどうかは、登記簿上の地目とは関係がない。たとえ地目が「原野」であっても、現状が「耕作目的の土地」であれば「農地」となる。
2.「農地」とは継続的に耕作する目的の土地である。住宅を建てるまでの間、一時的に野菜を栽培しているような家庭菜園などは「農地」ではない。その反面、たとえ休耕地であっても将来にわたって耕作する目的のものは「農地」である。
実務的には、宅地であるのか農地であるのか判断が分かれるような土地について取引を行なう場合には、市町村の農業委員会において確認を受けることが最も安全である。
賃貸借
ある目的物を有償で使用収益させること、あるいはそれを約する契約をいう(賃貸借契約)。
賃貸借契約の締結によって、貸主(賃貸人)は目的物を使用収益させること、目的物を修繕すること等の債務を、借主(賃借人)は賃料を支払うこと、目的物を返還する際に原状回復すること等の債務をそれぞれ負うことになる(従って双務契約である)。
民法では、あらゆる賃貸借契約について、
1.契約期間は最長でも50年を超えることができない、2.存続期間の定めがない場合にはいつでも解約の申し出ができる、3.賃貸人の承諾がない限り賃借人は賃借権の譲渡・転貸ができない、4.目的物が不動産の場合には賃借人は登記がない限り第三者に対抗できない
等と規定している。
しかしながら、不動産の賃貸借は通常は長期にわたり、また、居住の安定を確保するために賃借人を保護すべしという社会的な要請も強い。そこで、不動産の賃貸借については、民法の一般原則をそのまま適用せず、その特例として、
1.契約期間を延長し借地については最低30年とする、2.契約の更新を拒絶するには正当事由を必要とする、3.裁判所の許可による賃借権の譲渡を可能にする、4.登記がない場合にも一定の要件のもとで対抗力を認める
等の規定を適用することとされている(借地借家法。なお、契約期間等については、定期借地権など特別の契約について例外がある)。
農業生産法人
農業経営を行なうために農地の取得が認められる法人をいい、株式会社等の会社法人と農事組合法人の2つの形がある。
法人による農業経営は、経営管理能力や取引信用力の向上、雇用労働関係の明確化、労働者の福祉の増進、新規就農者の確保などが期待できるとされる一方、耕作者が農地を所有することで維持されてきた農地・農村秩序との調整が必要であるともされる。
なお、会社法人である農業生産法人については、役員の一定割合が農業に常時従業することなど、その構成員等について一定の要件を満たさなければならない。
法人
私法上の概念で、自然人以外で、法律上の権利・義務の主体となることを認められた団体・財産をいう。
法人の設立は、法律の規定によらなければならないとされている。
例えば、一般社団法人、一般財団法人、株式会社、学校法人、宗教法人、管理組合法人などはすべて法人である。
NPO(法人)
「Non Profit Organization」(民間非営利組織)のことで、福祉・医療・教育など不特定で多数のものの利益に寄与することを目的に活動する民間の非営利的な団体をいう。
民間非営利組織は、社団法人、財団法人など特別の法律によって設立されたもの以外は「権利能力なき社団」として法人格を有することができなかったが、1998年に「特定非営利活動促進法」が施行され、設立の認証によって法人格が認められることとなった。この認証を受けたNPOを、「特定非営利活動法人」という。
所有権
法令の制限内で自由にその所有物の使用、収益および処分をする権利をいう。
物を全面的に、排他的に支配する権利であって、時効により消滅することはない。その円満な行使が妨げられたときには、返還、妨害排除、妨害予防などの請求をすることができる。
近代市民社会の成立を支える経済的な基盤の一つは、「所有権の絶対性」であるといわれている。だが逆に、「所有権は義務を負う」とも考えられており、その絶対性は理念的なものに過ぎない。
土地所有権は、法令の制限内においてその上下に及ぶとされている。その一方で、隣接する土地との関係により権利が制限・拡張されることがあり、また、都市計画などの公共の必要による制限を受ける。さらには、私有財産は、正当な補償の下に公共のために用いることが認められており(土地収用はその例である)、これも所有権に対する制約の一つである。
賃借権
賃貸借契約によって得られる借主の権利をいう。
借主は契約の範囲で目的物を使用し収益できる一方、貸主に賃料を支払わなければならない。民法上、債権とされる。
賃借権は債権であるので、
1.登記しなければ第三者に対抗できない(賃貸人に登記義務はなく、登記がなければ対抗要件を欠くので、例えば目的物が譲渡されると新たな所有者は賃借権に拘束されない)
2.賃貸人の承諾なしに賃借権の譲渡・転貸ができない(承諾なしに第三者に使用・収益させたときには賃貸人は契約を解除できる)
など、物権に比べて法的な効力は弱い。
しかし、不動産の賃借権は生活の基盤であるため、賃借人の保護のために不動産の賃借権について特別の扱いを定めている(賃借権の物権化)。
すなわち、対抗力については、借地に関してはその上の建物の保存登記、借家に関しては建物の引渡しによって要件を満たすこととした。また、譲渡・転貸の承諾については、借地に関しては、建物買取請求権を付与し、さらには裁判所による承諾に代わる譲渡等の許可の制度を設け、借家に関しては造作買取請求権を付与した(いずれも強行規定である)。
そのほか、契約の更新拒絶や解約において貸主の正当事由を要件とすることを法定化し、判例においては、賃借権の無断譲渡・転貸を理由とした契約解除を厳しく制限する、賃借権にもとづく妨害排除請求権を承認するなど賃借人保護に配慮している。
一方で、借地借家の供給促進の観点から定期借地権、定期借家権が創設され、賃借権の多様化が進みつつある。
関連用語
農地の転用制限(農地転用許可基準・農地法)
農地を農地以外の目的に利用する(これを、「農地の転用」と呼ぶ)場合に課せられる制限をいう。
農地法では、土地利用の調整と優良農地確保のために、農地転用に当たっては、原則として農林水産大臣または都道府県知事の許可を要すると規定しているが、これが農地の転用制限である。
農地の所有者が自分自身で転用する場合(自己転用)および転用を目的として農地の売買等をしようとする場合(転用目的の権利移動)には、面積の多少にかかわらずいずれも許可が必要である(農地法の根拠条文に即して、自己転用の許可を「4条許可」、転用目的の権利移動の許可を「5条許可」と呼ぶことがある)。ただし、重要な例外として、市街化区域内の農地の転用に関しては、農業委員会に届出すれば、許可は必要がないとされている。
市街化区域内農地以外の農地転用の許可に当たっては、
1.農用地区域内の農地、土地改良事業の対象となった農地等は原則的に不許可、市街化が見込まれる区域内の農地等は原則的に許可というような、農地の属性に応じた基準
2.周辺農地の営農に支障を生ずる恐れがない、当該農地に代えて周辺の他の土地を供することにより当該申請に係る事業の目的を達成することができないなどの条件を満たすかどうかという、転用の目的等に基づく基準(1.および2.の基準を合わせて「農地転用許可基準」と呼ぶ)
に照らして判断される。農地転用許可基準は、転用の状況に応じて詳細に規定されているので、宅地建物の取引等に当たっては十分な注意が必要である。
なお、農地法においては、自己転用や転用目的の権利移動のほか、農地を農地のままで売買等することについても、原則として許可が必要である(これを「3条許可」と呼ぶ)。また、許可を要するにもかかわらず許可を得ないでした売買契約等は、無効である。