借家権
しゃくやけん・しゃっかけん
建物の賃借権をいう。
建物の賃借権は、通常の賃借権と異なって、借家人を保護するために特別の取扱いを受ける。
主要な保護措置として、
1.登記がなくても家屋の引渡しを受ければ第三者に対抗できること
2.家主の解約や契約更新拒絶には正当事由がなければならないこと
3.契約終了時の造作買取請求権が認められること
4.内縁の妻など同居者による借家権の継承が認められること
などがある。
なお、定期借家権については、原則としてこのような保護の対象とはならない。
建物
民法では、土地の上に定着した物(定着物)であって、建物として使用が可能な物のことを「建物」という。
具体的には、建築中の建物は原則的に民法上の「建物」とは呼べないが、建物の使用目的から見て使用に適する構造部分を具備する程度になれば、建築途中であっても民法上の「建物」となり、不動産登記が可能になる。
賃借権
賃貸借契約によって得られる借主の権利をいう。
借主は契約の範囲で目的物を使用し収益できる一方、貸主に賃料を支払わなければならない。民法上、債権とされる。
賃借権は債権であるので、
1.登記しなければ第三者に対抗できない(賃貸人に登記義務はなく、登記がなければ対抗要件を欠くので、例えば目的物が譲渡されると新たな所有者は賃借権に拘束されない)
2.賃貸人の承諾なしに賃借権の譲渡・転貸ができない(承諾なしに第三者に使用・収益させたときには賃貸人は契約を解除できる)
など、物権に比べて法的な効力は弱い。
しかし、不動産の賃借権は生活の基盤であるため、賃借人の保護のために不動産の賃借権について特別の扱いを定めている(賃借権の物権化)。
すなわち、対抗力については、借地に関してはその上の建物の保存登記、借家に関しては建物の引渡しによって要件を満たすこととした。また、譲渡・転貸の承諾については、借地に関しては、建物買取請求権を付与し、さらには裁判所による承諾に代わる譲渡等の許可の制度を設け、借家に関しては造作買取請求権を付与した(いずれも強行規定である)。
そのほか、契約の更新拒絶や解約において貸主の正当事由を要件とすることを法定化し、判例においては、賃借権の無断譲渡・転貸を理由とした契約解除を厳しく制限する、賃借権にもとづく妨害排除請求権を承認するなど賃借人保護に配慮している。
一方で、借地借家の供給促進の観点から定期借地権、定期借家権が創設され、賃借権の多様化が進みつつある。
正当事由
土地・建物の賃貸借契約において、賃貸人が契約の更新を拒絶したり、解約の申し入れをする際に必要とされる「事由」をいう。
一般的に、賃貸借契約は、期間の満了や解約の申し入れによって特段の理由を必要とせずに終了するが、土地・建物の賃貸借については、賃借人保護のために、賃貸人からの更新拒絶等に当たって「正当事由」を要するとされているのである(強行規定であり、これに反する契約条項は無効となる。1941(昭和16)年施行)。
何が正当事由となるかは、裁判での判断に委ねられていて、多数の判例があるが、規定の趣旨に照らせば、借地・借家人に有利になる傾向があるのは当然である。判例を受けて、現在の借地借家法では、正当事由は、貸主・借主が土地・建物の使用を必要とする事情、賃貸借に関する従前の経緯、土地・建物の利用状況、立退料の提供などを考慮して判断するとしている。
このように、正当事由がないと土地・建物の賃貸借を終了することができないという規定は、借地や貸家の供給を妨げかねないという意見も強く、一定の要件に該当する場合には、契約の更新を認めないという特約を結ぶことも可能とするよう法律が改正された(土地については1992(平成4)年8月、建物については2000(平成12)年3月から施行)。そのような特約付きの賃借権が、定期借地・借家権等である。
造作買取請求権
借家契約の終了の際、賃借人(借家人)が賃貸人(家主)の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作を家主に時価で買い取らせることのできる権利をいう(借地借家法第33条)。
造作とは、畳、建具、電気・水道施設などをいい、その付加について家主の同意を得ていることが必要である。
また、ここでいう「借家契約の終了」とは、賃貸借が期間の満了又は解約の申し入れにより終了することをいう。
民法の原則では、賃貸借契約の終了時には賃借人が付加した造作を収去しなければならないとされている(民法第545条第1項)が、造作買取請求権は、借家契約における例外規定であり、利用価値を向上させるとともに、収去に費用が発生する場合などに、賃貸人が買い受けることで造作の価値や利便性を維持するという社会経済上の利点がある。ただし、造作の買取り義務を負わないよう賃貸借契約において事前に特約を結ぶことが可能(同条は任意規定)であり、退去時のトラブル回避のために原状回復を旨とし、賃借人の造作買取請求権の放棄を定めている場合も多い。