対抗要件
たいこうようけん
私法上の概念で、当事者間で効力のある法律関係が、第三者に対して効力を有するための要件をいう。
これに対して、当事者間で効力を有するための条件は「成立要件」といわれる。
対抗要件は、権利によって異なる。例えば、動産に関する物権譲渡の対抗要件は「引渡し」であるが、不動産に関する物権譲渡の対抗要件は「登記」である。あるいは、不動産の賃貸借権の対抗要件をみれば、原則は賃貸借契約後にその物権を取得した者に対して「登記」とされるが、借地権の場合は「借地権者が土地の上に登記された建物を所有すること」、建物の賃貸借権の場合に、その後建物の物権を取得した者に対して「建物の引渡し」という特例がある(借地借家契約については、権利の登記がなくても第三者に対抗できるということである)。
また、「債権譲渡」の際の対抗要件については、その解説を参照。
動産
動産とは「不動産以外の物」のことである(民法第86条第2項)。
そして不動産とは「土地及びその定着物」とされているので、動産とは「土地及びその定着物ではない物」ということができる。
特に重要なのは、不動産に付属させられている動産(例えば家屋に取り付けられているエアコンなど)である。このような動産は「従物(じゅうぶつ)」に該当し、不動産実務でよく問題となる(詳しくは従物、付加一体物へ)。
物権
物を直接に支配する権利をいう。
その典型は所有権である。
そもそも財産を支配する権利には、「物権」と「債権」の2つの類型がある。物権は、すべての人に対して権利を主張できる絶対的な財産支配権であるのに対して、債権は、特定の人にある要求をする権利であって第三者には権利を主張できない相対的な請求権である。このように、物権の基本的な性格は、その絶対的排他性にある。
絶対的排他性を確保するため、物権には、
1.後に成立した物権や内容が抵触する債権に優先する効力(優先的効力、ただし借地借家の賃借権(債権である)などの例外がある)
2.物権の内容の円満な実現が妨げられ、または妨げられる恐れがある場合に、妨害を除去・予防するため必要な行為を請求する権利(物権的請求権または物上請求権と呼ばれる。具体的には、返還、妨害排除、妨害予防の請求権)
が与えられている。また、排他性の帰結として、同一物に対して同一内容の物権は一つしか成立しない(一物一権主義、だからこそ、土地を筆に分けて各筆をそれぞれに一物とするのである)。
また、すべての人に対する権利であることから、物権の変動は公示しないと第三者に対抗できないとされる(公示の原則)。対抗要件は、不動産に関する権利変動については「登記」、動産に関する物権譲渡については「引渡し」である。
さらには、物権は、法律で定められた以外のものを新たに創設することはできないとされている(物権法定主義)。民法で定められているのは、所有権のほか、地上権(他人の土地を借りて使用できる権利)、地役権(他人の土地を自己の土地のために供し得る権利)、抵当権(優先的に弁済を受ける権利)、占有権(物に対する事実上の支配により認められる権利)などである。また、慣習法上の物権も判例により認められており、温泉権や流水利用権はこれに当たる。
不動産
不動産とは「土地及びその定着物」のことである(民法第86条第1項)。
定着物とは、土地の上に定着した物であり、具体的には、建物、樹木、移動困難な庭石などである。また土砂は土地そのものである。
賃貸借
ある目的物を有償で使用収益させること、あるいはそれを約する契約をいう(賃貸借契約)。
賃貸借契約の締結によって、貸主(賃貸人)は目的物を使用収益させること、目的物を修繕すること等の債務を、借主(賃借人)は賃料を支払うこと、目的物を返還する際に原状回復すること等の債務をそれぞれ負うことになる(従って双務契約である)。
民法では、あらゆる賃貸借契約について、
1.契約期間は最長でも50年を超えることができない、2.存続期間の定めがない場合にはいつでも解約の申し出ができる、3.賃貸人の承諾がない限り賃借人は賃借権の譲渡・転貸ができない、4.目的物が不動産の場合には賃借人は登記がない限り第三者に対抗できない
等と規定している。
しかしながら、不動産の賃貸借は通常は長期にわたり、また、居住の安定を確保するために賃借人を保護すべしという社会的な要請も強い。そこで、不動産の賃貸借については、民法の一般原則をそのまま適用せず、その特例として、
1.契約期間を延長し借地については最低30年とする、2.契約の更新を拒絶するには正当事由を必要とする、3.裁判所の許可による賃借権の譲渡を可能にする、4.登記がない場合にも一定の要件のもとで対抗力を認める
等の規定を適用することとされている(借地借家法。なお、契約期間等については、定期借地権など特別の契約について例外がある)。
借地権
借地権とは次の2つの権利のどちらかのことである(借地借家法第2条)。
1.建物を所有する目的で設定された地上権
2.建物を所有する目的で設定された土地賃借権
従って、資材置場にする目的で設定された土地賃借権は「借地権」ではない。
また、青空駐車場とする目的で設定された土地賃借権も「借地権」ではないことになる。
建物
民法では、土地の上に定着した物(定着物)であって、建物として使用が可能な物のことを「建物」という。
具体的には、建築中の建物は原則的に民法上の「建物」とは呼べないが、建物の使用目的から見て使用に適する構造部分を具備する程度になれば、建築途中であっても民法上の「建物」となり、不動産登記が可能になる。
債権譲渡
契約により債権を第三者に譲り渡すことをいう。
これにより、もとの債権者(A)の債務者(B)に対する債権は、そのままの内容で、債権を譲り受けた第三者(C)のBに対する債権に転換する。
Bは債権譲渡の契約には関知しないが、譲渡契約について対抗要件を満たすことが要請される。Bがその債務を誰に弁済すべきかを異義のないように決定するには、Bに対するAの通知またはBの承諾が必要であり、また、B以外の第三者に対して誰が債権の譲受人であるのかを異義のないように決定するには、Bに対するAの通知またはBの承諾は、確定日付のある証書によってなされなければならない。
なお、法人が、指名債権であって金銭の支払いを目的とする債権を譲渡した場合には、その債権の譲渡について債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、その債権の債務者以外の第三者については、確定日付のある証書による通知があったものとみなすという特例がある。
また、一定のリース債権等については、債権を譲渡する旨を日刊紙に公告することによって、第三者に対する対抗要件を得ることができるとされている。これらの措置は、いずれも債権の流動化を容易にして、金融手段を多様化するニーズに応えるための仕組みである。