無効
むこう
法律行為がなされたときに、当事者が表示した意思のようには法律効果が生じないことをいう。
意思はあってもそもそも効果が生じないのであるから、法律行為は追認や時の経過によっても有効とはならない。また、原則として誰でも誰に対しても無効を主張できる。
無効となる法律行為としては、
1.公の秩序または善良の風俗に反する事項を目的とする行為(公序良俗違反)
2.法律によって効果が生じないとされている行為(強行規定違反)
3.虚偽の意思表示や錯誤による行為
などがある。ただし、虚偽の意思表示による無効については善意の第三者に対抗できないし、錯誤による無効については重大な過失があれば無効にならないなど、一定の例外がある。
例えば売買契約が無効であれば、当事者に請求権は発生せず(代金の支払いや目的物を引き渡す義務はない)、すでに事実行為がなされているときには、その回復を請求できる(不当利得として代金や目的物の返還を求めることができる)。もっとも、契約無効の原因が公序良俗違反であるときの代金の支払い等については、不法な原因による給付であるとして不当利得の返還を請求できないとされるなど、無効の原因や契約の事情に応じて不当利得の取扱いに違いがある。
追認
効果のない法律行為について、その効果を生じさせる意思表示をいう。
一定の場合にのみ認められる(通常は、新たな法律行為が必要である)。
その場合とは、次の4つである。
1.無権代理人の法律行為について、本人の意思表示で本人について効果が生じる。
2.無効の法律行為について、当事者が無効であると知ったうえで追認すれば、そのとき新たな行為をしたとみなされる。
3.取り消すことのできる行為を一方的な意思表示によって確定的に有効とする。
4.訴訟能力等を欠いている場合の訴訟行為について、能力を得た後の追認によって行為のときに遡って効力が生じる。
強行規定
法律の規定であって、公の秩序に関する規定を「強行規定」という。
また同じ意味で「強行法規」ということもある。
強行規定は、当事者の意思に左右されずに強制的に適用される規定であると解釈されている。従って、強行規定に反するような契約をした場合には、その契約はその部分について無効とされる。
この反対に、当事者の意思によって適用しないことができる規定は「任意規定」という。
ある規定が強行規定であるかどうかは、その規定の性質にもとづいて判断するのが原則である。例えば、民法の相続に関する諸規定は、社会秩序の根本に関わる規定であるため「強行規定」であると判断されている。
これに対して、消費者や社会的弱者を保護するようないくつかの法律では、法律中で強行規定であることを明記している場合がある。
例えば、借地権の存続期間等について定めた借地借家法第3条から第8条については、借地借家法第9条で「この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする」と明記されている。
意思表示
一定の法律効果を欲するという意思を外部に表示することである。
意思表示は次の3つの部分から構成されている。
1.内心的効果意思
具体的にある法律効果を意欲する意思のこと。例えば、店頭で品物を買おうと意欲する意思が内心的効果意思である。
2.表示意思
内心的効果意思にもとづいて、その意思を表示しようとする意思のこと。
例えば、店頭で品物を買うために、店員にその旨を伝えようとする意思である。
(なお、表示意思を内心的効果意思に含める考え方もある)
3.表示行為
内心的効果意思を外部に表示する行為のこと。
例えば、店頭で品物を買うために、店員にその旨を告げることである。
なお、内心的効果意思のもととなった心意は「動機」と呼ばれる。例えば、品物を家族にプレゼントしようという意図が「動機」である。しかし、現在は判例・通説では「動機」は原則として、意思表示の構成要素ではないとされている。
錯誤
内心的効果意思と表示行為が対応せず、しかも表意者(意思表示をした本人)がその不一致を知らないこと。
錯誤は本来、内心的効果意思を欠く意思表示であるため、錯誤に基づいて法律行為を行なった本人を保護し、錯誤に基づく法律行為を無効とするのが原則である。しかし、それでは表意者の意思表示を信頼した相手方の保護に欠ける結果となる。
そこで、民法では次の方法により表意者保護と相手方保護の調整を図っている。
1.意思表示が次の錯誤に基づくものは取り消すことができる。ただし、その錯誤が法律行為の目的、社会通念に照らして重要なものであるときに限る。
1)意思表示に対応する意思を欠く錯誤
2)法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反する錯誤。ただしその事情が法律行為の基礎であることが表示されているときに限る。
2.表意者の重大な過失による錯誤は、次の場合を除き取消しすることができない。
1)相手方が錯誤であることを知り、または重大な過失によって知らなかったとき
2)相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき
3. 錯誤による意思表示の取消は、善意かつ過失のない第三者に対抗できない。
なお、このような規定は、錯誤をめぐる判例の積み重ねの結果、民法(債権関係)改正(施行は2020年4月1日から)によって明確化された。
売買契約
当事者の一方が、ある財産権を相手方に移転する意思を表示し、相手方がその代金を支払う意思を表示し、双方の意思が合致することで成立する契約のこと(民法第555条)。
売買契約は諾成契約とされている。つまり、当事者の双方が意思を表示し、意思が合致するだけで成立する(財産が引き渡されたときに成立するのではない)。
また、売買契約は不要式契約なので、書面による必要はなく口頭でも成立する。
さらに、売買契約は財産権を移転する契約であるが、その対価として交付されるのは金銭でなければならない(金銭以外の物を対価として交付すると「交換契約」となってしまう)。
当事者の双方の意思の合致により売買契約が成立したとき、売主には「財産権移転義務」が発生し、買主には「代金支払義務」が発生する。両方の義務の履行は「同時履行の関係」に立つとされる。
公序良俗違反
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とされている(民法第90条)。
民法などにおける強行規定に違反する法律行為は無効とされているが、こうした強行規定に該当しない法律行為であっても、民法第90条により、公序良俗に違反したことを理由として法律行為が無効とされる場合がある。
例えば、暴利行為(高利貸し)、倫理に反する行為(妾契約)、正義に反する行為(悪事をしないことを条件として金を与える行為)、人権を侵害する行為(男女を差別する雇用契約)などである。
なお、公序良俗違反に関しては実際の状況に応じて、無効か否かを判断するという処理がされることが多い。例えば、密輸資金の融資を強く要請され、やむを得ず融資した者が貸金の返還を請求した事案では、最高裁は、融資した者の不法性は微弱であり、公序良俗違反に当らないとして貸金の返還請求を認めている。