環境権
かんきょうけん
人権の一つで、良好な環境のもとで生活を維持する権利をいう。
公害や環境保護をめぐる裁判において、法的に保護されるべき普遍的な権利として主張されることが多い。
その内容は、
1.良い環境を享受し、かつこれを支配する権利(自由権的な権利)
2.健康で快適な環境の保全を求める権利(社会権的な権利)
の2つを含むと考えられている。
しかし、判例は、環境権を根拠とした妨害排除や損害賠償の請求において、実定法上そのような権利に関する規定がなく、権利の内容が不明確であるなどとして、環境権を私法上の権利としては認めていない。新たな権利を認知しなくても、人格権に基づき不利益等を救済できる場合が多いことがその理由の一つであるとされている。
一方、環境権を、環境の享受に影響を及ぼす行為等について私人が関与することを保障する権利(手続き的権利)であるとし、私法上の権利性を重視しない考え方もある。
なお国際的には、環境権とは、人間環境宣言(国連人間環境会議、1972年ストックホルム)の第1原則に示された「人は、その生活において尊厳と福祉を保つに足る環境で、自由、平等及び十分な生活水準を享受する基本的権利を有する」という考え方であるとされている。
損害賠償
違法行為によって損害が生じた場合に、その損害を填補することをいう。
債務不履行や不法行為などの違法な事実があり、その事実と損害の発生とに因果関係があれば損害賠償義務を負うことになる。その損害は、財産的か精神的かを問わず、積極的(実際に発生した損害)か消極的(逸失利益など)かも問わず填補の対象となる。
ただし、その範囲は、通常生ずべき損害とされ、当事者に予見可能性がない損害は対象とはならない(相当因果関係、因果の連鎖は無限に続くため、予見可能性の範囲に留めるという趣旨)。
損害賠償は原則として金銭でなされる。また、損害を受けた者に過失があるときは賠償額は減額され(過失相殺)、損害と同時に利益もあれば賠償額から控除される(損益相殺)。
なお、同じように損害の填補であっても、適法な行為(公権力の行使)によって生じた不利益に対する填補は、「損失補償」といわれて区別される。
私法
法のうち市民相互の関係を規律付けるものをいう。
国民と国家との関係を規律付けるのが「公法」であり、法の体系は、私法と公法の大きな2つの類型に分けることができる。
私法は、市民の相互関係を対象とする規律であるから、自由平等の関係を基盤に、私益を調整することを目的とする。一方、公法は、支配服従の関係を定めて公益の実現をめざすことに特徴があるとされる。
私法の一般法は民法である。民法の基本原理は、
1.法の下の平等、2.私的財産権の絶対性、3.契約自由の原則(私的自治)、4.過失責任主義
であるとされるが、これらの原理はいずれも私法の基本的な特徴でもある。私法を構成する代表的な法律は、民法のほか、借地借家法、商法、会社法などである。
私法と公法とを区分することに対しては、私的活動に対する行政の関与が拡大することに伴って両者を区分する必然性が薄れたこと、労働法や産業法のような公益上の理由で市民相互の関係を規律付ける法律分野(社会法といわれ、私法と公法の中間的な性格を持つとされる)が出現したことなどにより、その意味を失ったという意見もあるが、法の本質的な性格を明確にする基本的な視点を提供すること、法概念を分析するための基盤となることなど、区分することの理論的な有効性はいまなお失われていない。