壁量充足率
へきりょうじゅうそくりつ
木造軸組工法において、風圧および地震動に対抗するためには、一定量の壁が必要であるとされている。建築基準法施行令第46条第4項では、木造軸組工法の構造上の規制として、風圧および地震動に対応するために、建築物の床面積や階数、屋根の重さに応じて、壁の面積や厚さを要求している。これが「壁量」である。
さらに、壁自体の構造について筋かい、合板を用いた耐力壁であるかどうかによって、要求される壁の「量」は変動する。
こうした、構造上の観点から要求される壁量を計算するのが「壁量計算」であり、それが満たされているかどうかの指標が「壁量充足率」である。
壁量の基準については、上記のような建築基準法上の最低限規制のほかに、長期優良住宅の認定基準としても用いられており、従来は、耐震等級2または3に該当する壁量を要求していたものが、2022(令和4)年10月からは、断熱材や省エネ設備の設置による建築物の重量化を踏まえ、耐震等級3相当へと見直された。
さらに、小規模木造建築物の壁量については、2022(令和4)年6月に公布された「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第69号)による建築基準法および同法施行令の構造関係規定の改正に合わせて、かねてより懸案であった木造建築物における省エネ等による建築物の重量化(例えば太陽光パネルを設置するなど)に対応するための同法施行令および関係告示の改正が行なわれ、すでに公布されている(令和6年政令第172号および令和6年国土交通省告示第447号)。
改正後は、2階建て以下、高さ16m以下、延べ300平方メートル以下のすべての木造住宅・建築物について、壁量と柱の構造基準が見直され、壁量については、(1)建築物の荷重の実態に応じて、算定式に基づく表計算ツールにより必要な壁量を算定するほか、(2)簡易に必要な壁量を確認するため早見表の活用が可能となるとともに、(3)構造計算(許容応力度計算等)により安全性を確認する場合は、壁量の確認を省略することが可能となった。
新たな壁量基準の施行は、2025(令和7)年4月に予定されている。
木造軸組工法
在来工法ともいい、木造建築物の工法の一つ。
「在来工法」とは、「伝統工法」をベースとしながら、第二次大戦後の技術革新で新たに生まれた木造建築物の工法である。
この「在来工法」は、「木造軸組工法」「在来軸組工法」「在来木造」「木造軸組」などのさまざまな呼び方がされるが、その内容は基本的に同じである。
「在来工法」の特徴としては次のことが挙げられる。
1.鉄筋コンクリート製の「布基礎」(連続フーチング基礎)を採用し、土台と布基礎をアンカーボルトで緊結する。
2.筋かいを入れて、プレート等で止めつけることにより、軸組全体を安定させる。
3.壁材に構造用合板を採用する等により、壁に強度を与える。
4.その他、材の接合部(仕口)に多様な金物を用いて、軸組全体を補強する。
これらの工夫により構造的に強い木造建築が初めて可能となった。
ちなみに建築基準法では、木造建築物についてさまざまなルールを設けているが、これらのルールの前提として想定されているのはこの「在来工法」である。
建築基準法
国民の生命・健康・財産の保護のため、建築物の敷地・設備・構造・用途についてその最低の基準を定めた法律。市街地建築物法(1919(大正8)年制定)に代わって1950(昭和25)年に制定され、建築に関する一般法であるとともに、都市計画法と連係して都市計画の基本を定める役割を担う。
遵守すべき基準として、個々の建築物の構造基準(単体規定、具体的な技術基準は政省令等で詳細に定められている)と、都市計画とリンクしながら、都市計画区域内の建物用途、建ぺい率、容積率、建物の高さなどを規制する基準(集団規定)とが定められている。また、これらの基準を適用しその遵守を確保するため、建築主事等が建築計画の法令適合性を確認する仕組み(建築確認)や違反建築物等を取り締まるための制度などが規定されている。
その法律的な性格の特徴は、警察的な機能を担うことであり、建築基準法による規制を「建築警察」ということがある。
建築物
建築基準法では「建築物」という言葉を次のように定義している(建築基準法第2条第1号)。
これによれば建築物とは、およそ次のようなものである。
1.屋根と柱または壁を有するもの
2.上記に付属する門や塀
3.以上のものに設けられる建築設備
上記1.は、「屋根+柱」「屋根+壁」「屋根+壁+柱」のどれでも建築物になるという意味である。
なお、地下街に設ける店舗、高架下に設ける店舗も「建築物」に含まれる。
床面積
建築物の各階において、壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の面積をいう(建築基準法施行令第2条1項3号)。
なお具体的な床面積の判定の方法については、建設省(現国土交通省)が、通達(昭和61年4月30日付建設省住指発第115号)によって詳しい基準を設けている。
屋根
建物の上部に設ける覆い。屋根は、雨露、風雪、寒暑を防ぐために設けられ、建築構造の一部となる。
屋根のかたちには、二つの面が棟で山型に合わさる「切妻屋根」、山型の二面とその両端を斜めに切る二面で構成する「寄棟屋根」、傾斜した四つの面が頂点で合わさる「方形屋根(ほうぎょうやね)」、一つの傾斜面の「片流れ屋根」、水平面の「陸屋根(ろくやね)」、切妻屋根の両端に傾斜面を付加した「入母屋屋根(いりもややね)」などがある。
屋根材としては、粘土瓦、セメント瓦(プレスセメント瓦、コンクリート瓦)、スレート(化粧スレート、天然スレート)、金属(銅、トタン、ガルバリウム鋼板等)が用いられるほか、陸屋根の屋根材には、アスファルト、モルタル、防水シート等の防水材が使用される。また、古民家のなかには茅や藁を用いるものもある。
なお、屋根を仕上げることを「葺く」といい、屋根を「瓦葺」「スレート葺」「茅葺」などに分ける場合もある。
合板
ベニヤ板ともいう。
薄く切った木材を奇数枚貼り合わせたもの。木材を交互に直交させることにより、強度を高めている。
合板は、普通合板、構造用合板などに区別される。
耐力壁
建築基準法第20条の規定に基づいて、地震力や風圧力による水平方向の力に対抗することができるように、筋かいを入れ、または構造用合板などを張った壁のことを「耐力壁」と呼ぶ。
建築基準法では「建築物は、自重、積載荷重、積雪、地震力、風圧力などに対して安全な構造でなければならない」として、すべての建築物が構造に関する基準を満たすことを要求している(建築基準法第20条第1項、同施行令第3章第1節から第7節の2)。
また、木造3階建てなどの建築物では、特に構造計算により安全性を確認することを義務付けている(建築基準法第20条第1項第2号)。
この建築基準法第20条により、建築物は地震力・風圧力という水平方向の外力に十分に対抗できるような構造を有することが要求されており、この必要性を満たすために筋かいを入れ、または構造用合板等を張った壁を一般に「耐力壁」と呼んでいる。
耐力壁の構造は、建築基準法施行令第46条第4項の表(一)と昭和56年建設省告示第1,100号により詳しく規定されている。
それによれば、例えば在来工法の木造建築物において、柱・梁・筋かいから構成される壁は耐力壁となる。また枠組壁工法において一定の面材(構造用合板、パーティクルボード、石膏ボードなど)を張った壁は、筋かいがなくとも、耐力壁である。
なお建築物の形状や面積により、どれだけの耐力壁を備えるべきかという基準のことを「必要壁量」といい、この必要壁量の計算方法は建築基準法施行令第46条第4項に規定されている。
この必要壁量の計算方法では、建築物の下方階ほど強度の高い耐力壁を多く備えることが要求されている。これは地震力・風圧力とも下の階にいくほど多くの力がかかり、強い対抗力が必要になるからである。
また建築物の形状については、奥行きの長い建築物ほど多くの力がかかるため、必要壁量も多くなる。このため奥行きの長い建築物では、外壁だけでなく、内部を仕切る内壁(間仕切り壁)も耐力壁にする必要性が生じやすい。
長期優良住宅
長期にわたり使用可能な質の高い住宅をいう。
その具体的な基準は明確には定まっていないが、単に物理的に長寿命であるだけでなく、ライフスタイルの変化などへの対応、住環境への配慮など、社会的に長寿命であることが必要であるとされる。「200年住宅」ともいわれる。
長期優良住宅の開発・普及は、優良な住宅ストックを形成するための重要な政策の一つであると考えられている。
2008年には、長期優良住宅の普及のために「長期優良住宅の普及の促進に関する法律(長期優良住宅普及促進法)」が制定され、i)長期使用に耐える構造(劣化対策、耐震性、維持管理・更新の容易性、可変性、省エネルギー性、バリアフリー性)を備え、ii)居住環境、iii)自然災害への配慮、iv)住戸面積、v)維持保全計画について一定の基準を満たす住宅を認定する制度(認定長期優良住宅制度)が創設されている。
また、認定長期優良住宅の普及のために、税制上の優遇、容積率の制限緩和、超長期住宅ローンなどの措置が講じられている。
同時に、法律とは別に、長期間使用可能な住宅の先導的なモデルの開発や、住宅の建築確認、点検、保全工事などの情報(住宅履歴情報)を記録・保存する仕組みを整備し、その活用などによって優良な住宅の円滑な流通を促進することなども推進されている。
耐震等級
建物の耐震強度を示す指標で、住宅性能表示において定められている。
建築基準法が定める最低基準(震度6強程度の地震によって倒壊・崩壊しない強度)を満たす強度が「等級1」、最低基準の1.25倍の強度が「等級2」、同じく1.5倍の強度が「等級3」である。
断熱材
熱の移動を防ぐために使われる材料。
一般に、グラスウールなどの無機繊維系材料、セルロースファイバーのような木質繊維系材料、羊毛などの天然素材、ポリスチレンフォーム、ウレタンフォームなどの発泡プラスチック系材料等に分類される。それぞれ、断熱性能、耐熱性、耐久性、施工方法、価格などが異なる。
断熱材を建物に施工する方法には、構造の空隙に断熱材を充填する「充填断熱工法」と、構造体の外面を断熱材で覆う「外張断熱工法」とがある。
木造
建物の主要な部分を木材とした建築構造のこと。
木造の工法は、大きく分けて「在来工法」「伝統工法」「枠組壁工法」に分類されている。
国土交通省
国の行政事務を分担管理する機関のひとつ。国土交通省設置法に基づいて設置され、その長は国土交通大臣である。英語表記は、Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourismである。
「国土の総合的かつ体系的な利用、開発及び保全、そのための社会資本の整合的な整備、交通政策の推進、観光立国の実現に向けた施策の推進、気象業務の健全な発達並びに海上の安全及び治安の確保を図ること」(国土交通省設置法)を任務とし、その達成のための事務を司っている。
所掌事務は多岐にわたるが、たとえば、国土、都市、住宅、交通に関する政策、河川、道路、港湾の整備、不動産業、建設業、運送業に関する事務の大部分は、国土交通省が担っている。また、国土地理院、気象庁、海上保安庁、観光庁は、国土交通省の組織である。
国土交通省は、平成の中央省庁再編の一環として、国土庁、建設省、運輸省、北海道開発庁を統合し、2001年1月6日に発足した。
木造住宅
木を主な材料にして建築された住宅。構造体が木材で造られている。
一般に、木造の柱、梁、桁などを線的な構造体に組み立てる「木造軸組工法」(「木造在来工法」ともいう)で建築される。また、規格化された木造の枠組を壁面構造体に組み立てる「木造枠組壁工法」(「2×4(ツーバイフォー)工法」ともいう)で建築された住宅も木造住宅である。
なお、高層の木造建築は実現が難しいとされてきたが、高強度の木質集成材(CLT、LVLなどによるマスティンバー)や複合構造材等の開発が進み、木造ビルの建築が可能になってきている。
構造計算
構造物に関して、自重、地震、強風などの加重によって発生する応力や変形を計算することをいう。その結果に基づいて構造物の安全性等を判断する。
建築確認申請に当たっては、構造や規模に応じて定められている一定の建物について、構造計算書を添付して、構造計算適合性の判定を受けなければならない。この場合の計算方法や、想定する加重、必要とする耐力などは、建物の構造、規模、用途等によって異なる。
なお、構造計算の適合性の確保を含めて建築物の構造をデザインする業務を構造設計と言い、建築士が責任を負うべき重要な業務のひとつとされている。耐震設計もこれに含まれる。