最終更新日:2023/12/1
指定住宅紛争処理機関
していじゅうたくふんそうしょりきかん建設住宅性能評価書が交付された住宅について、建設工事の請負契約または売買契約に関する紛争が発生した場合に、紛争の当事者の双方または一方からの申請により、紛争のあっせん・調停・仲裁の業務を行なう機関を「指定住宅紛争処理機関」という(住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)第67条)。
指定住宅紛争処理機関になることができるのは、各都道府県の弁護士会又は一般社団法人若しくは一般財団法人に限定されている(住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)法第66条)。
このような指定住宅紛争処理機関の利用に関して次の点が重要と思われる。
1.建設住宅性能評価書が交付されている住宅であることを要する。
住宅性能評価を受けていない住宅は、指定住宅紛争処理機関による紛争処理を申請することができない。
また、住宅性能評価書には設計住宅性能評価書・建設住宅性能評価書の2種類が存在するが、設計住宅性能評価書だけが交付されている場合にはこの紛争処理を申請することができない。
2.紛争処理を申請する際の費用は原則として1万円。
住宅品質確保法第69条および同法施行規則第104・105条により、紛争処理を申請する際の手数料は1万円とされている。ただし、鑑定等に要する費用を紛争の当事者が別途負担するように指定住宅紛争処理機関が定めることも可能とされている。
3.紛争処理の対象は、評価書に記載された事項に限定されない。
指定住宅紛争処理機関が扱う紛争の範囲は、建設住宅性能評価書に記載された事項に限定されない。例えば、住宅の欠陥を原因として居住者に健康被害が発生したような場合には、その住宅の欠陥の物的損害だけでなく、健康被害による損害についてもあっせん・調停・仲裁を申請することができる。
また例えば、共同住宅の建設住宅性能評価書において、重量床衝撃音などの「音環境に関すること」を全く検査せず、音環境の評価結果が存在していない事例であっても、上階からの衝撃音が大きく生活に支障をきたすような場合には、その住宅の欠陥に対してあっせん・調停・仲裁を申請することが可能である。
4.民事裁判への移行も可能。
あっせん・調停には和解契約としての効力が発生し、仲裁には民事訴訟の確定判決と同じ効力が発生するとされている。 しかし、そもそも紛争当事者の双方の合意がなければ、あっせん・調停・仲裁を行なうことはできない。
従って、紛争当事者の双方が合意に至らない場合には、紛争当事者は通常どおりの民事訴訟を提起することができる。また、指定住宅紛争処理機関による紛争処理を申請しないで、初めから民事訴訟を提起することも当然可能である。
建設住宅性能評価書
品確法では、建設住宅性能評価書を交付された新築住宅については、建設住宅性能評価書に記載された住宅の性能が、そのまま売買契約の契約内容になる場合があると規定しており、この規定により買主保護が図られている(詳しくは「住宅性能評価書と請負契約・売買契約の関係」へ)。
新築住宅について建設住宅性能評価書が作成されるには、「設計住宅性能評価書の作成」「建設住宅性能評価書の作成の申請」「検査の実施」「建設住宅性能評価書の作成」という過程を経る必要がある(詳しくは「新築住宅の建設住宅性能評価書」へ)。
また、既存住宅について建設住宅性能評価書が作成されるには、「建設住宅性能評価書の作成の申請」「現況検査」「個別性能評価」「建設住宅性能評価書の作成」という過程を経る必要がある(詳しくは「既存住宅の建設住宅性能評価書」へ)。
これらの建設住宅性能評価書に記載されるべき事項については、国土交通大臣が基準を定めている(詳しくは「日本住宅性能表示基準」へ)。
なお、建設住宅性能評価書が交付された住宅については、原則として1万円の費用負担で弁護士会に紛争処理を申請することができる(詳しくは「指定住宅紛争処理機関」へ)。
売買契約
売買契約は諾成契約とされている。つまり、当事者の双方が意思を表示し、意思が合致するだけで成立する(財産が引き渡されたときに成立するのではない)。
また、売買契約は不要式契約なので、書面による必要はなく口頭でも成立する。
さらに、売買契約は財産権を移転する契約であるが、その対価として交付されるのは金銭でなければならない(金銭以外の物を対価として交付すると「交換契約」となってしまう)。
当事者の双方の意思の合致により売買契約が成立したとき、売主には「財産権移転義務」が発生し、買主には「代金支払義務」が発生する。両方の義務の履行は「同時履行の関係」に立つとされる。
住宅の品質確保の促進等に関する法律
主な内容は次のとおりである。
1.住宅性能評価書
国土交通大臣により登録を受けた評価専門会社等(これを登録住宅性能評価機関という)に依頼することにより、住宅性能評価書を作成することができる(同法第5条)。 住宅性能評価書には、設計図等をもとに作成される設計住宅性能評価書と、実際に住宅を検査することにより作成される建設住宅性能評価書がある。
登録住宅性能評価機関は、住宅性能評価書を作成するにあたっては、国土交通大臣が定めた正式な評価基準である「日本住宅性能表示基準」に準拠しなければならない。
住宅の建築請負契約書または新築住宅の売買契約書に、住宅性能評価書を添付した場合等には、請負人や売主はその評価書に表示されたとおりの性能の住宅を、注文者や買主に引き渡す義務を負うことになる。
2.弁護士会による紛争処理 ・住宅紛争処理支援センター
建設住宅性能評価書が交付された住宅について、請負契約または売買契約に関する紛争が発生した場合には、紛争の当事者は、弁護士会の内部に設置されている指定住宅紛争処理機関に対して、紛争の処理を申し立てることができる。 紛争処理を申請する際に当事者が負担する費用は、原則として1万円である。
また、弁護士会による紛争処理を支援する等の目的で、住宅紛争処理支援センターを設置することとされ、「公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター」が国土交通大臣により指定されている。住宅紛争処理支援センターは、弁護士会に対して紛争処理の業務に要する費用を助成するほか、登録住宅性能評価機関から負担金を徴収する等の事務を行なっている。
3.10年間の瑕疵担保責任の義務付け等
新築住宅の売買または建設工事における契約不適合責任(瑕疵担保責任)として、次の義務を定めた。
(1)新築住宅の「構造耐力上主要な部分」および「雨水の浸入を防止する部分」の契約不適合(瑕疵)について、売主・工事請負人は、注文者に住宅を引き渡した時から10年間、契約不適合責任(瑕疵担保責任)を負う。
(2)契約によって、(1)の瑕疵担保期間を20年以内に延長することができる。
この特例は強行規定であり、特約によって責任を免れることはできない。
品確法
設計住宅性能評価書
住宅品質確保法では、設計住宅性能評価書を交付された新築住宅については、設計住宅性能評価書に記載された住宅の性能が、そのまま請負契約や売買契約の契約内容になる場合があると規定しており、この規定により注文者保護・買主保護が図られている(詳しくは「住宅性能評価書と請負契約・売買契約の関係」へ)。
このような設計住宅性能評価書が作成される手順はおよそ次のとおりである。
1.作成の依頼
新築住宅の請負人または注文者(もしくは新築住宅を売却する売主または買主)が、登録住宅性能評価機関に対して、設計住宅性能評価書の作成を依頼する(同法施行規則第3条)。
この評価書作成の費用は10万円から30万円程度といわれているが、その費用は請負人または注文者(もしくは売主または買主)が負担することになる。
なお既存住宅(建設工事完了後1年以上が経過した住宅や、建設工事完了後1年以内に人が住んだことがある住宅のこと)については、設計住宅性能評価書の作成を依頼することができない。
2.必要な書類の提出
依頼者は、登録住宅性能評価機関に対して、設計住宅性能評価書を作成するために必要な関係書類を提出する。
この依頼者が提出すべき書類は、配置図・仕様書・各階平面図など非常に多岐にわたる(提出書類は国土交通省告示「設計住宅性能評価のために必要な図書を定める件」により定められている)。
3.設計住宅性能評価書の作成
登録住宅性能評価機関は提出された多数の書類にもとづき、国土交通大臣が定めた基準に準拠して、新築住宅の性能を評価し、設計住宅性能評価書を作成する(このとき評価する項目の詳細は「日本住宅性能表示基準」へ)。
このように設計住宅性能評価書は、あくまで設計図等の書面のみにもとづく評価結果であり、現地で住宅を検査した結果にもとづく評価ではない。
そのため、請負人・注文者(もしくは売主・買主)が、検査結果にもとづく住宅性能評価書の作成を希望する場合には、登録住宅性能評価機関に対して建設住宅性能評価書の作成を別途依頼する必要がある(同法施行規則第5条)。
このようにして、依頼者の費用負担で作成された設計住宅性能評価書を、実際に請負契約書・売買契約書に添付等するかどうかは請負人・売主の自由に委ねられている(同法第6条)。