詐欺により動機の錯誤に陥れられた者が、その錯誤にもとづいて意思表示を行なった場合には、その意思表示は取り消すことができる(民法第96条第1項)。例えば、AがBの詐欺によりBに対して土地の売却を行なった場合には、AはAB間の土地売買を、詐欺を理由として取り消すことが可能である。
しかしながら、詐欺を行なうのは取引の相手方とは限らず、相手方以外の第三者が詐欺を行ない、本人を錯誤に陥れる場合がある。このような詐欺は第三者詐欺と呼ばれ、民法第96条第2項が適用される。
例えば、AがCの詐欺によりBに対して土地の売却を行なった場合には、AはCの詐欺(第三者詐欺)のせいで錯誤に陥っているのであるから、本来ならば被害者であるAを保護し、AB間の土地売買を第三者詐欺を理由としてAが取り消すことを可能にすべきであるとも考えられる。しかし、もしAの取消しを常に可能とするならば、詐欺に関与していないBの取引の安全を著しく害する結果となり不当である。
そこで、民法第96条第2項では「相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、本人は取り消すことができる」と規定し、本人保護と相手方保護の調和を図っている。つまり、上記の例で、Cの詐欺によりAが錯誤に陥っていることをBが知っていた、又は知ることができたのならば、そのようなBを保護する必要はないので、Aの取消しを可能にするという趣旨である。
なお、このようにAの取消しが可能な場合であっても、善意の第三者(例えば事情を知らないで上記のBから土地を購入してしまったD)が存在する場合には、AはDに対しては取消しの効果を主張することができないことに注意したい。
(詳しくは詐欺における第三者保護へ)