時効の援用とは、時効の完成によって利益を受ける者が、時効の完成を主張することである。時効の援用とは、時効の効果を確定的に発生させる意思表示であるということもできる。
当事者が時効を援用しない限り、時効の効果は発生しないものとされている(民法第145条)。時効の援用は、裁判において主張することもできるが、裁判外で主張することもできる。なお、時効の援用は「相対効」とされており、援用した者だけが時効の完成を主張することができ、援用しない者についてまで時効が完成するわけではない。
時効の援用をすることができる者の範囲は、「時効の完成により直接的に利益を受ける者」に限定されている(判例)。ただし「直接的に利益を受ける者」の範囲は、判例上次第に緩やかに解釈されるようになってきており、また判例も多数あるので注意したい。いくつか具体例を挙げる。
1.保証人
債務者の債務を保証している保証人は、債務者の債務が消滅時効により消滅すれば、保証債務から解放されるので、「消滅時効の完成により直接利益を受ける者」に該当する。たとえ債務者が時効を援用しなくとも、保証人自身が債務者の債務が時効消滅していると主張し、消滅時効を援用することができる(つまり保証人は援用権者である)。
なお、債務者が時効を援用せず保証人が援用した場合には、債権者は保証人に対する関係では債務の存在を主張できなくなる。従ってこの場合には、保証のない債務が残る結果となる。
2.物上保証人
債務者のために自己の財産を担保に入れている者(物上保証人)も、上記の保証人と同じ理由により、援用権者である。
3.抵当不動産の第三取得者
AがBから借金をし、その担保としてA所有の土地に抵当権を設定し、その後にAがこの抵当権付の土地をCに売却したとする。このときCを抵当不動産の第三取得者というが、CはAの債務(借金)が消滅時効により消滅すれば、抵当権も同時に消滅するので、Cの所有する土地の価値は上昇する。このようなCも消滅時効の援用権者である。
4.仮登記担保付の不動産の第三取得者
借金の担保として債務者の土地について再売買の予約を行ない、登記の原因を「売買予約」として「所有権移転請求権仮登記」を行なった場合も、実質的には上記3.の抵当権の設定と同じことである。そのため、こうした仮登記のついた不動産の第三取得者も、上記3.と同様に、消滅時効の援用権者である。
5.借地人・抵当権者
取得時効の時効期間が経過した土地の借地人や、その土地に抵当権を設定している抵当権者は、その土地が取得時効により取得されたことを主張できる。つまり、借地人や抵当権者は援用権者である。
6.建物賃借人は土地所有者に対して取得時効を援用できない。
AがBの土地を占有し、Aが自己所有の建物を建築し、その建物をAがCに賃貸した場合に、建物賃借人であるCは、Aが取得時効により土地を取得していることをBに対して主張できないとされる(昭和44年7月15日最高裁判決)。ただし、学説はこの判例に反対である。