抵当権が付着している不動産を、抵当権が付着した状態のままで取得した者(第三取得者という)は、いつ債権者の意向により任意競売(抵当権の実行)にかけられるかわからないという不安定な状態に置かれてしまう。そこで民法改正(2004年4月1日)より以前の旧民法第378条では「滌除(てきじょ)」という制度を設けていた。
この「滌除」では、第三取得者が自ら適当と認める金額を債権者に呈示して、債権者がそれを承諾すれば抵当権が消滅するが、債権者がそれを承諾しないときには債権者は必ず一定の金額以上で抵当不動産を任意競売にかけなければならないとされていた。この一定の金額以上での債権者による任意競売のことを「増価競売」という(改正前の民法第383条・第384条)。
増価競売では、第三取得者が呈示した金額の10分の1以上高価な価額で競売を申し立てなければならない。例えば、債権者Aが債務者Bに3,000万円を融資し、不動産Pに3,000万円の抵当権を付けたとする。その後、Bがこの不動産Pを500万円で第三者Cへ売却したとする。本来、この不動産Pの時価評価は3,500万円だが、3,000万円の抵当権が付着している分だけ売却価格が下げられているとする。
このとき第三取得者Cは、債権者Aに対して「Cが2,500万円をAに支払うので、これにより抵当権を消滅させる」旨を請求することができる(2,500万円という金額は例えとして挙げたもので、事情により幾らにするかは第三取得者が決めてよい)。
債権者が、この2,500万円の呈示に承諾しかねるときは、債権者は2,750万円の最低売却価額を設定して、抵当不動産を任意競売にかけなければならない。そして買受人が現れないときは、債権者自らが抵当不動産をその最低売却価額で買い受けなければならない。このような仕組みが「増価競売」である。
増価競売では、特に不動産の相場が下落している時期には、債権者(主に金融機関)にとって損失が発生する可能性があり、債権者にとって酷であると考えられてきた。そのため、2004年4月1日の民法改正により増価競売は廃止されている。なお、このとき滌除の制度そのものも大幅に改正され、抵当権消滅請求という名称になっている(詳しくは抵当権消滅請求へ)。