所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができない建物(共有の場合には知ることができない共有持分)について、管理の必要性があるときに、裁判所が、管理人(所有者不明建物管理人)を選任し、その建物の管理を命令する処分。民法の改正によって創設された制度である(2023年4月1日施行)。土地についても類似の制度(所有者不明土地管理命令)がある。
所有者の所在が不明な建物等の管理・処分を行なうための制度として、裁判所が、不在者財産管理人や相続財産管理人を選任して管理・処分する仕組みがある。しかしこれらは、対象者の財産全般を管理する仕組みであって、特定の建物等を管理する場合には利用できない。所有者不明建物管理命令は、その必要に応えるべく創設された制度である。
所有者不明建物管理命令は、所有者不明建物の利害関係人の請求によって、裁判所が、i)調査を尽くしても所有者またはその所在を知ることができないこと、ii)管理状況等に照らし管理人による管理の必要性があること、の両方を認めた場合に決定される。その効力は、所有者不明建物のほか、建物にある所有者の動産、管理人が得た金銭等の財産(売却代金等)にも及ぶ。
所有者不明建物等の管理権限は、所有者不明建物管理人に専属する(訴訟の当事者にもなる)。この場合、保存行為や建物等の性質を変えない利用・改良行為は自身の判断で行なえるが、これらの範囲を超える行為(例えば建物の取り壊し)をするには、裁判所の許可が必要である。また、所有者不明建物管理人は、所有者に対して善良な管理者の注意義務を、共有持分に係る管理人は、共有者全員に対して誠実かつ公平な権限行使義務を負う。
なお、区分所有建物については、所有者不明建物管理命令は適用されない。